「本城さん、ちょっとこの子見ててもらえるかな?」

「あ、はい。」

午後5時からの仕事。

小学生の剣道の稽古を見ている。

「…姿勢がちょっと前屈みになりすぎてるから、もうちょっと戻して」

「…は、はい」

あぁ、
怖がられてるな、私。

小学生には怖いよね、こんな不良のおねぇさん……

でもこんな純潔で憎たらしいくらいカワイイ小学生との接し方なんてわかんないよ。

どうやら私はこの道場に通ってる子供達全員に怖がられているようで、
以前にも師範からもうちょっと物腰柔らかく!って注意された


「ぎんたま」に近づきたいと軽い気持ちで始めた剣道も、意外と夢中になって、
半年で特別に免許皆伝して(師範は前代未聞の早さだ!天才だ!と騒いでいた)、
その時期は高校の男子からかなり剣道の助っ人頼まれたっけ……

かなりうざかったなぁ


「本城先生」

「…え、何」


「あ、ありがとうございました、さようならっ」

「…あ、もうこんな時間か…さようなら…」

あんまり稽古してあげられなかったなぁ……

…取り敢えず、明日も仕事だし、帰るか

私は、剣道場の師範に挨拶する。

「お疲れ様でした。さようなら」

「お疲れ!気をつけて帰りなよ!」

「ありがとうございます」

道場を出、夜道を歩く。

ここの道場の師範さんは本当に私に良くしてくれる

私みたいなのをすぐに受け入れてくれたし
(まあそれは私が免許皆伝したってのもあるんだろうけど)、
たまに学校が嫌でいつもより早く出勤したときも、
何も言わずに笑顔で仕事を押し付けた。
そう、あの人は私に何も聞かない。

もしかしたら、噂とかで私が捨て犬なのは知ってるのかもしれないけれど、
本当に何も聞かないのだ。

それが、私にとって一番心地よい優しさを感じられた。


「…あ、月、綺麗……」


カーブミラーに映る満月を見つけた。

「……って、うわっ」
ドサッ

満月に興奮し、荷物を落としてしまった。

「今日は荷物重いなぁ…トランペット持ってるし…」


それとなく荷物を見下ろし、またカーブミラーに目をやる。



………あれ?

あのカーブミラーの月、
さっき、あんなに光ってたっけ?


カーブミラーを凝視していると、月の光が強くなってきた。


「うわっ!、えっ!?眩しっ……!!」


思わず手を顔に当てた。


やがて、光りがおさまったように感じたので、恐る恐る、手を顔から離してみる。


…その時の、光景。


「………………は?」


真っ暗。


前後左右、上も下も全部真っ暗。


「何、ここ」


怖い

怖い

怖い怖い………!





「…あ、」


光を見つけた


小さいけど、しっかりと、確かに、光っている。



安心できる、光。



思わずその光に向かって走りだす。


その光の先は………




たくさんの人がいた


「あれ、現実?…なんでこんなに人が」
パパーーーー!!


目の前に車


「え、嘘」

…死?



時がゆっくり流れる


え、なに、現実に戻れたと思ったら…


私死ぬの?


……あれ?
ていうかあの車に乗ってる人って…?





………………、
…その後、その事故で私が覚えているのは


「危ない!」

…そう、誰かが叫んだのと、

どんっっ
『きゃっ!』

ごんっ

…誰かに背中を押されたけど、

…頭をおもいっきり打ったこと。










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