ガラッ

真昼間の4時間目、みんながうとうとしかけている古文の時間に、急にドアが開いた。

入ってきたのは、今さっき校門をくぐったばかりの、赤黒い髪にピアス…明らかなる不良。

「本城!お前なんで今更学校来てんだよ。」

古文を担当する、クラスの担任が怒鳴った。

「朝から学校来てたし…」

「学校に来ていても教室に来なかったら来たことにならん!もう、お前は今日欠席って主任に言っちまったぞ!」

「もう欠席扱いでいーよ」

そこで口ごもった担任を尻目に、私は1番後ろの席についた。

途端に、周りにいた不良がひそひそと話を始めた。

「おいっ…!捨て犬が来たぞ…!せっかく今日はデカイ態度していられたのに…」
「ばっ…!おま、声でかいって…!!捨て犬なんて呼んでんのバレたら…!」

「ねえ」

「!!…はい?」

「私のことは別になんと呼んでも構わないからさ、コソコソ私のこと喋んのやめてくれる?イライラするから」

「…すんません、本城さん」

「…」


捨て犬って呼んでていいって言ったのに…。

私は、そのまま視線を下にし、単行本を開いた。


…親に捨てられ、孤児院から逃げ、
幼い頃からの一人暮らし。

そんな私の事を誰もが『捨て犬』と呼んでいた。バレバレだっつの。


…もう慣れた。

今の私には、「ぎんたま」があるんだ

授業中に堂々と読んでいる単行本の内容が、「ぎんたま」などと誰が想像するだろうか。



キーンコーンカーンコーン


チャイムの音で目が覚めた。

…あれ、私いつの間に寝てたんだろ

「…本城さん…ちょ、ちょっといいかな?」

「…何?」

クラスの…確か嶋田さんとかいう女の子に話し掛けられた

「えと…お願いなんだけど、来週の演奏会、トランペット吹くはずだった大塚さんが転校しちゃって。できたら代わりに出演して欲しいんだけど…」

「ごめん無理」

「あ……」

嶋田さんは気まずそうに俯いた。

「悪いけど、仕事忙しいから」

「そっか…だ、だよね。無理言って、ごめんね」

「…こちらこそ」

私がトランペット吹けること、どこから知ったんだろう…

まぁ、たまに学校の屋上で吹いてるから、知ってるか…

そうだ、今日は河川敷にトランペットを吹きに行こう、
荷物を纏めて廊下に出た。


「んん?おい本城!!鞄もって何処行くんだ!?」

えー…見つかった…担任…

「…帰る」

「学校が終わるまで仕事には行かせんと言っただろ?まだ7時間目とHRが残ってるぞ!」

うっとうしいなあ…

「…どうせ仕事は5時からだし…」

「じゃあなんで帰ろうとしてんだ」

「帰りたいから?」

「聞くな。…また誰かになんか言われたのか?」

少し心配そうな担任の目。
なんで私、虐められてる事になってんのよ

「…私が虐められる訳ないじゃん。こんな不良を虐める馬鹿は居ないわ」

「まあ、それもそうだが…」

「つーことで先生、さようなら」

「おーう気をつけて帰れよー…っておい本城!!」


よっしゃ馬鹿だ!

私は全力疾走で担任から逃げた





河川敷到着!

「はああ、つ、疲れた…」

少し休憩しよう

冬の北風も全力疾走した私にとっては気持ちいい。

その場にしゃがみ、風を感じる。

……「ぎんたま」の河川敷じゃぁ確か、源外さんと銀さん達がお祭りの準備してたな…

鮮明に思い出す。

高杉の初登場、新八の音痴発覚、山崎がタコ焼きつまみ食いして副長に殴られて…

…行きたい。


「「ぎんたま」の世界に行きたいな…」


「ぎんたま」の皆ならきっと、
私のこと捨て犬なんて呼ばないだろう

「…ま、「ぎんたま」の世界なんてありえないけどね!」

トランペットを構えて、吹き始める。


「……変な音」

今日は調子悪いのかな


「…吹く気無くした」

仕事に行こう、ちょっと本屋立ち寄ってから。

一人の方が気分が軽い。

軽いあしどりで帰路を歩いた。





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