私はノボリさんが好きだ。この恋は一応成就されているのに、私の胸は初めて恋した時と変わらない、むしろ大きくなる気持ちに押し潰されそうだった。
彼の言動にいちいち反応してる私は、傍観者から見たらきっと滑稽で、くだらないだろう。そう思うと少しだけ苦笑いがこぼれる。

彼の隣りで電車が来るまでの短い時間を過ごしていた。この時間がずっと続けば良いのにと何度思っただろうか、しかし、そんな事は叶わないのは当たり前の事で、いつもみたく電車はすぐにやって来た。



「ノボリさん、バイバイ」

「えぇ、さようなら」



電車に乗って、さようなら。
いつもそうやって、呆気ないくらいの別れを私たちは交わす。
別に、不満では無い。むしろ、仕事の時間を割いてまで私の見送りに来てくれる彼には感謝すら感じる。
だけど、物足りないのは確かで、しかしそれは私のエゴ、我が儘だから、彼には言えない。
だから私は、毎日同じ別れを繰り返す。

中々電車に乗れなかった私は、意を決して電車に乗ろうと彼に背を向けた時、空いていた手を何かが掴んだ。



「ちょっとだけよろしいでしょうか」

「え……」



フワリと、視界は黒くなり、顔に当たる布と、ノボリさんの香り。
びっくりして、体がこわ張る。



「ノボリさ、人が見てます…」

「すみません、けれど、少しだけ…」



より一層強くなる腕の力に、私の心臓はパンク寸前で、顔は熱くて。
あぁ、もっと帰れなくなってしまった。



帰り際の魔法
(ほら、もっと好きになる)

----------------
ひたすら甘く、を目指してみました!
ご希望にそえていれば幸いです
リクエストありがとうございました

20110131