目の前の黒は、いつも以上の仏頂面。
眉間には深い深いしわが刻まれている。



「お茶、です」

「ありがとうございます」



口調は、いつもと同じ。
しかし顔はいつもよりおっかないものだから、思わずサッと逃げて来てしまった。
彼は何を苛々してるのだろうか。



「あの、クダリ様」



近くにいたクダリ様に聞こうと話し掛ける。
彼は「ん?」と覇気のない声。
バトル以外の時はいつもこれだ。
きっと今も眠くて仕方が無いのだろう。



「ノボリ様、何を苛々してるんですか?」

「え、苛々してるの」



小声で言えば、先ほどまで眠そうに下がっていた瞼が持ち上がり、驚いた様な顔と大きな声。
あぁ、折角小声で言ったのに。
チラリとノボリ様の様子を伺えば、案の定仏頂面はこちらに向いていて、先ほどよりも眉間に強くしわが寄っていた。



「……なんですか」

「いえ、何でもないです」

「ボクも何も…」



と、二人で言っても彼の追及するようなまなざしは一向に逸れることがない。
沈黙が重たい。そんな時、沈黙を破る機械音。
音の方に目をやれば、クダリ様の無線機。



「…バトル!すぐ行く!」



慌ただしい彼がバタバタと帽子を手に取り事務室から飛び出して行った。
部屋は、またもや沈黙。
気まずい雰囲気、逸れない視線は精神的にかなりの苦痛をもたらしている。



「……あの、」

「なまえさん」

「はい…、」

「わたくし、眠いのでございます」



眠い、?
ノボリ様の顔を凝視したところ、目の下にはうっすらとくまがあり。
思うところ、眠らないように我慢していたのだろう。



「はぁ、そうなんですか」

「そこで、わたくし寝る時には枕がないと寝れません」

「ほぅ、」



交わる視線。
別にときめきなどはなく、淡々と喋る彼を見る。
結局のところ彼は何を言いたいのだろうか。



「膝を貸してくださいまし」

「は、い!?」



思いがけない結論に、思わずたじろいた。
それは、俗にいう膝枕というもので恥ずかしいことは明白なのである。



「え、ぇえ?」

「今、はいと言いましたよね。そこに座ってくださいまし」



立ち上がった彼に背中を押され半ば強引に座らせられ、帽子を取った彼の頭が私の膝に乗っかった。
思った以上に顔が近く、何とも小恥ずかしい。



「あ、あの、ノボリ様、」



問い掛けに返事はなく、静かな寝息だけが耳に入る。
寝るの、早いな。
それから数分、私の足が痺れて動かなくなったのは言いまでもない。



あぁ、
(ノボリ様の無線機はいつ鳴ってくれるのだろうか)