「…クダリ様、」

「なぁに?」



なぁに?じゃないですよ。
目の前のソファ周辺は散らかり放題。
おおよその原因はクダリ様だろう。
掃除するのは誰だと思っているんだ。



「何散らかしてるんですか」

「あ、ゴメンね!」



ニッコーと、笑顔。
あぁ、憎たらしい…、けれど憎めないものだから不思議だ。
ひく、と顔の筋肉が動いた。
引きつる笑顔、握り締めた拳の力は、服をしわしわにしている。
しかしながら、相手は上司。
我慢だ。
たとえ過去に唇を奪われ、我が儘により腰辺りを痛めた事があったとしても、我慢。



「はぁ、ノボリ様に怒られますよ、ほら、退いてください。片付けますから」

「わぁ、ありがとう!」



ニコニコーと、とびっきりの笑顔。
それを見た私は、盛大な溜め息。
ゴミ袋片手にクダリ様周辺のゴミだけでも何とかしようと手をかけた瞬間、ガチャリと後ろの扉が開いた。



「クダリ、ッ!」



分かりやすい、驚いた声が降って来る。
何となく、振り向きがたい状況で、クダリ様の顔を盗み見た。
ノボリ様を気にしていないのか、ニコニコとこちらを凝視。



「なまえさん…、これはどういう事でございますか」



それを私に聞きますか…。
えぇ、と、と言葉を濁しどう説明したらいいか考えた。
しかし、この様な状況でいい説明の仕方が思い付くはずもなく。



「クダリ、貴方様がやったのですか」

「あ、ゴメンね!」



これまた笑顔がキラキラさいた。
それを見て、彼の鉄仮面が少しばかり崩れ、口元をゆがませている。



「クダリ、片付けなさい。なまえさん、あなたは何もしなくていいです」

「え…でも、」

「しつけになりませんから」



まるで犬の飼い主の様だ。
まぁ、相手は人間だが。
えぇ、と言って驚いた顔のクダリ様。
しかしノボリ様に逆らえないのか、分かった、と不服そうな声をあげたクダリ様は私が持っていたゴミ袋を取り上げ、ゴミを無差別に捨て始めた。
あぁ、分別…と、ノボリ様が声を漏らす。



「ほら、クダリ様、そこにもゴミが」

「ほらクダリ、そっちにもありますよ」

「…なんか、二人とも…」



そう、言って何も言わなくなった。
続きが気になり、先を促すと、不機嫌そうな顔でこう言った。



「何か…お父さんお母さんみたい。ノボリお父さん、なまえお母さん」



クダリ様の言葉が耳を通過し、ゆっくりと横のノボリ様に目をやる。
目が合い、そして直ぐに離れクダリ様を見た。



「クダリ、馬鹿な事を言わないでくださいまし!」

「なんで?ボク、見たままはっきり言っただけだよ」



クダリ様の鋭い視線に負けたのか、ノボリ様は黙って部屋を出て行ってしまった。
横切った顔は、赤で染まっていて、びっくりしたけれどあえて触れないでおこう。
クダリ様を見れば、まだ不機嫌そうにノボリ様が出て行った扉を睨み付けている。



「ノボリ、照れてた。面白くない。ボクもなまえと夫婦したい」



問題はそこなのかと、また溜め息がでた。



お掃除と夫婦
(こんなでかい子供いりません)