私がもしもエスパーだったら、この溢れ出る気持ちを彼の頭に直接流し込んで、私の事でいっぱいにしてやるのに。
勿論、私はエスパーじゃないから、出来っこない。臆病者の私には、こんな"もしも"を考えるだけで精一杯なのだ。

私は彼を見るため乗る宛の無いホームに日参する。彼は駅に勤めていて、決まって朝はホームに立っていた。その姿を数分眺め、満たされた心で職場へ行くのが日課だ。
今日も早くに起きて、彼を物陰から眺める。黒いコートが靡く様は、私の心をときめかした。
数分間眺め続け、そろそろ職場へ行かなくては、と私は彼がいるホームからいつも乗っている電車のホームへ移動した。



「ねぇねぇ」

「?」



肩を叩かれ振り向くと、そこにはいつも見ている彼とそっくりな人が立っていた。
しかし、目の前のその人は真っ白で、彼とは違いにんまりと笑顔だ。
ドッペルゲンガー…?
等と下らない思考を回しながら、不自然に前に出された彼の手元に視線を落とした。



「落としてたよ、これキミのでしょ?」

「あ…私のです、ありがとうございます」



いつの間にか落としていたハンカチを受けとる。
お気に入りの物だったため助かった。私は大きく頭を下げた。
彼にそっくりな白い人はにっこり微笑むと、ホームの奥へ消えていった。

…――私って、こんなに軽い子だったのかな。
だって、黒い彼も白い彼もどっちも好きだと思ってしまったんだもの。



欲張りな恋
(二人ともほしい)



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山田も二人ともほしいです



20120629