スローモーションに見えた。
手を引かれて、彼の腕の中に収まった。彼の柔らかい洗剤の香りが私を包みこむ。彼は、柄にもなく私をきつく抱き締めた。いつもなら、もう少し弱めなのに。視界に映る黒がとても心地よかった。



「ノボリ?」



返事はなく、ただ少しだけ抱く力が弱まるだけだった。見上げた顔は、いつもより表情がある気がして、少し不安にかられた。
いつもと違う。
それは、私の胸をざわつかせるのに十分だった。



「…なまえ、」



ぽつり、と彼は言葉をこぼした。とても切なそうで、悲しい瞳。あぁ、そんな顔をしないで。



「わたくし、夢を見たのです。貴女様が、私から離れていく夢を」

「…うん」

「わたくし、そんなこと考えられないのです。貴女様がいなくなるなんて、」「ノボリ」



彼の言葉を遮るように言葉を発した。今度は、私が彼に抱きつく。ノボリの顔は、相変わらず仏頂面だったけど、驚いてるようにも見えた。



「私は、いなくなったりしないよ」

「……」

「だから、そんな顔しないで?」
そう言いながら、背中を優しくさすれば、彼の瞳の色は優しい色に変わった。少し、涙目だけどね。そんな事が気にならないのは、彼の口角が少し上がっているせいだと思う。



スロウ
(ねぇ、好きだから泣かないで)



111024



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