「今日の夜、空けといてくださいまし」



いきなり現れた上司はそう言って立ち去った。
今日は、聖なる夜のクリスマス本番。
私には彼氏的な人物はいないため、悲しいながら暇だ。
まぁ、別にいいのだけど…何をするのだろうか。



夜、帰りの時間。
ノボリさんは言った通りそこにいた。クダリさんも一緒に。



「では、行きましょう」

「え、何処にですか」

「ボク等のお家」



そう告げたクダリさんとノボリさんはスタスタと歩いて行った。少し歩いて、マンションがたくさん見え始めた頃。
その中の一つに止まり、中にはいって行く二人。
エレベーターを乗り、沈黙。
今更ながらうるさくなって来た心臓、顔からはダラダラと汗が垂れてきた。



「さぁ、ここでございます」



そう言ったノボリさんは鍵をあけている様子。
横のクダリさんを盗み見ると、見事に目が合ってしまい慌てて逸らした。
ガチャ、と重々しい音で開く、扉。



「お邪魔します……」



入った先は、きっと几帳面そうなノボリさんが掃除をしているのだろうか、びっくりするくらいきれいだ。
立ち止まっていると、クダリさんに背中を押され、グイグイと中に入れられる。
制止を求めても止まることはなく、あっという間に居間についた。
これまた綺麗な、整理された一室。



「どうぞ、おくつろぎくださいまし」

「は、はい」



適当な所に座り、正座。
隣りに座ったクダリさんはニコニコと楽しそう。
上司二人の家で、食事。
今考えたらすごい状況。



「クダリ、手伝ってくださいまし!」

「えー!ボクなまえと話たい!」

「わたくしだってそうでございます、ほら、ケーキが落ちますよ」



それもヤダ!と言いながら慌ただしく走っていく。
緊張した私には彼らの会話が聞こえず、ただ一点を見つめて動けない。



「準備が出来ました。なまえ、どうしましたか?」

「え、あ、はい!」



ノボリさんの声で、現実に引き戻された。
目の前のテーブルには色々な食べ物。
ケーキは大きく、二段になっている。



「なまえ、なまえ!ケーキ食べる?」

「クダリ、切り方が酷いです。貸してくださいまし」



ありとあらゆる会話を繰り広げる二人を、呆然と見つめる。
あぁ、今日来ていなかったらこんな事は起きなかったんだろうな、と考えを頭が行ったり来たりした。
考え事をした私の前に、ずい、と突き付けられた物は鼻腔を刺激する甘い香り。
それをたどれば、ニコニコ顔。



「あーん」

「え、え?」

「だから、あーん、ほら食べないとこぼれちゃうよ」



ホラホラ、と突き出された物は、グラグラと不安定で今にもおっこちそう。
クダリさんに急かされ、慌ただしくそれを口に含んだ。
あーんを、されてしまった。



「おいしい?」

「は、はい…」



口元を押さえながら言えば、うんうんと頷きながらクダリさんもケーキを食べ始めた。
すると、また目の前にはケーキが突き出され、クダリさんかなと思い見れば、予想は外れ、



「クダリだけがやるのはずるいです。なまえ、あーん」



クダリさんがやると普通なこの行動。
しかしノボリさんがやると失礼ながら怪しい。
目の前のケーキを凝視していると、ノボリさんは「早く食べてくださいまし」と言ってグイグイ近付けた。
このままでは、零れる。
そう思えば、自然と口は開いた。



「おいしい、です」

「左様でございますか」



ニコリ
今はクリスマス。
彼の初めて見た笑顔。
これはきっとサンタさんからのプレゼントだ。



メリーメリー
(聖なる夜は三人で)

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ケーキ零れて舐めるみたいなやつもやりたかった…
というか、遅れてすみません


20101226



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