目の前にある本の中でまき起こる恋愛劇は、どれも現実には起こり得ないような事ばかり。
しかし、私はそんな非現実的なこの内容に惹かれていたのは確かだ。
女の子なら誰もが夢見る展開、私だって夢見ていいはず。
パラパラとページをめくり、溜め息。



「何を読んでいるのですか」



声をした方を見れば、予想通りの黒いコートが目に入った。
彼、ノボリは幼馴染みで恋人、のはず。
この際、恋人と形容する事にしよう。



「マンガ、少女マンガ」

「左様でございますか。時に、なまえ」



ぞわり。
背筋に嫌な感覚。
それと同時に嫌な予感と後悔。
ノボリが今から口にする事が手にとるように分かる。
先ず、勤務中にマンガを読むな。



「只今、勤務中でございますよね?」



二個目、不要物は持って来るな。



「それと、その様な物の持ち込みはどうかとございますよ」



最後、仕事に戻れ。



「少々、その書籍拝借させていただきます」



(あ、最後外れた)
スルリと私の手を抜けて、ノボリの手の元にいったマンガ、彼には似合わない華やかな表紙はこちらを見ている気がする。



「"由美子が好きだ!愛してる!""私もよ!孝夫さん!"……」

「あの、さ。朗読とかしないでよ……」



マンガを見つめたまま固まる彼を見る私、何だか異様な空気。
彼が見ているページは、丁度男の子が主人公に告白するところだ。
この様な話に免疫のない彼の頬が少し染まってる気がした。



「なまえはこの様な告白が理想なのですか、」

「女の子の夢じゃない?」



女の子、とノボリは呟く。
少々怪しい気もするが、気にしない事にしよう。
しばし顎に手を当て何かを考えていたノボリは思い付いたように手を叩き、私にマンガを渡して



「少々お待ちくださいまし」



と言って部屋から出ていった。
何をするつもりだろうか、と色々な考えが頭を巡る。
少しして、戻って来た彼の手には、薔薇の、花束。



「……何で、?」

「この様な小恥ずかしい事は、一度しかいいませんから、よく聞いていてくださいまし」



バサ。
目の前の薔薇は、赤くて綺麗。
ノボリは、少し息を吐いて意を決したように私を見据えた。



「貴方様は、この薔薇よりも美しく、気高い!愛しております、」

「ノボリ…!?」



そのまま抱き締められ、彼の顔は見れない。
けれど、彼の顔はきっと耳まで真っ赤だろうなと考えたら、少しだけ笑みが零れた。



ロマンチストになりきれない
(そんな彼が好き、です)

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ノボリさん、奇怪な行動
読んでくださりありがとうございます!


20101222



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