真っ暗、だった。
先は見えなくて、不安で、どうしようもなくなる。
まさか、ノボリさんの手袋にコーヒーをぶちまけるなんて。

きっと、何かの間違いだ。
そう!夢だ!夢なんだこれは!
現実逃避するために、私は一旦事務室から、ギアステーションに出た。
風にあたり、現実逃避どころか夢じゃないんだと実感してしまい。



「…やっぱりだめだ!洗おう!」



中に入り、そのままにしとおいた手袋に向かった。
そして、後悔した。
放っておいといたことに。
手袋はコーヒーをたっぷり吸ってしまい、もう元の白さを取り戻しそうにない。
コーヒー色に染まった手袋を見つめて、どうしようかと立ちすくむ。
謝るべき、だよね。
その時、コンコンと事務室の扉をたたく音が聞こえた。



「なまえ?いるのですか」



心臓が悲鳴をあげる。
(ヤバい…ノボリさんだ…)
あわあわとしていると、ガチャ…と扉の開く音。



「なまえ、わたくしの手袋……」



ノボリさんはコーヒーに浸った手袋を凝視して固まっている。
数秒後グググ、とギチギチした様な動きでこちらを向いた。



「…これは、どういうことでしょうか。ご説明お願いします」

「えー、と…コーヒーをこぼしてしまいました。ゴメンなさい!」



深々と頭を下げる。
ノボリさんは何も言わずただ私を見ているようで、視線が痛い。
もちろん、物理的な意味ではない。



「…頭を上げてくださいまし。別に、気にしていませんから」



頭を恐る恐るあげると、明らかに気にしてないという目じゃないノボリさん。
彼のグレーの瞳が、残念そうに暗い色をしている。
うぅ、罪悪感…。



「あの、本当にゴメンなさい……弁償します」

「……いえ、必要ありません。その代わり、」



チュッと、小さなリップ音。
頬に残る彼の唇らしきの感覚。
グルンと、私に背をむけたノボリさんは



「わたくしクダリに代えの手袋を貸してもらいに行きます。では」



カツカツカツカツと早い足音。
去って行く彼の耳が、真っ赤だったことを私は知っている。
それ以上に、私の顔はきっと真っ赤なんだろう。



コーヒー・メランコリック
(熱い頬は冷めることを知らない)

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あと片付けはノボリさんがやりました。


20101207



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