目の前の仏頂面が、気のせいかもしれないけれど何となく怒りを含んでいるように見える。
ほんと、気のせいならいいのに。
私はただソファに座っていた。
そう、何もせずに。
そこにいきなりやって来たノボリさんに私は覆い被さるようにして組み敷かれているのだ。
「あの、ノボリさん?」
「なんですか」
「怒ってます?」
「怒ってません」
というような会話を先ほどからずっとしているのだが、同じ言葉が繰り返されるだけで、何も変わらない。
身体の自由はこの人のおかげできかないのは勿論、逃げるなんて考えただけで恐ろしい。
に、してもだ。
彼が怒る理由を私は知らない。
だから謝るにも謝れないのだ。
彼はその仏頂面のまま文字通り触れるだけのキスをした。
「…さっき、喋っていらした男性は、貴女様とどの様な関係なのですか…?」
キスの余韻を味わうのも許されないのか真直ぐに目を見つめられ、言われた事を整理する。
さっき、とは?
「んん?…あぁ!違います、あれは道を聞かれてただけで…」
「……そうだったんですか」
そのままきつく抱き締められ、耳にはノボリさんの息を感じる。
微かに聞こえる鼓動にキュッと胸が締められた。
「あぁ、情けない。わたくしは貴女様がわたくし以外の異性と言葉を交わしているだけで気が狂いそうになるのです。できればずっとわたくしのそばにおいておきたいくらいなのです」
ノボリさんの言葉に耳を疑った。
だって、あのノボリさんが嫉妬、をしているのだ。
その事実に私は嬉しいと恥かしいがごちゃまぜになったような感情が胸の辺りで渦巻く。
「私は、ノボリさんのものです、よ」
自分で言ってて恥ずかしくなって、ボスッとノボリさんの肩に顔を埋めた。
フフ、と恐らくノボリさんの口からこぼれた笑い声につられて、私も小さくフフと笑った。
アナタのもの(私は貴方のもの、貴方は私のもの)
----------------
嫉妬ノボリヤバい。
うん、楽しい。
20101204