捕獲されたのは



王子→闇







気がつけば其処は暗闇で、これが夢か現実か、それすらも判別出来ない。
自分の呼吸音が小さく反響する事から、此処が狭い場所だと理解出来た。石の壁に囲まれた、底冷えする空気に、少し身震いをした。
ふと、空を見上げる。
瞳に映るは円形の枠、輝く星空、揺らめく月夜。

井戸、か?

直感でそう思った。只、自分が何故井戸の底に佇んで居るのかは判らない。それもどうでもいいかと思える程なのは、やはりこれは夢なのかもしれない。
暫くすると目が暗闇に慣れ始め、改めて井戸の底だと理解する。理解すると同時に、何やら物体を目に映すことが出来た。
暗闇に浮かぶ、それよりも少し鮮明な宵闇の陰。じわりと目に馴れ始めたその姿は、正しく人間その物だった。
地面に腰を付け、井戸の壁に凭れる姿は雪のように白い顔。相反するかのような、流れる宵闇の髪。
まるで人形のように整った造形。薄い唇はうっすら開いていた。
僕は思った。これが、この方が生きているものとは思えない。否、思いたく無い。
宵闇と白雪のコントラスト。指先までしなやかに整ったこの方を、あの生ける者達と同等にしたくない。してはいけない。
視線の高さをこの方に合わせると、益々その造りに心が冷え、瞬時に熱く高鳴る。
薄く開いたその唇から、呼吸音が小さく聞こえた。しかしそれは人が生きるには最低限を遥かに下回っている。
生か死か。まるで現実と幻想の狂喜。この方を、もっと知りたい。
そっと、指先でその白雪の肌に触れる。壊れないように、と触れたそれは陶器のように滑らかで、幾分か冷えていた。まるで、屍体のように。
頬の指を滑らせ、辿り着いた薄い唇を親指でそっとなぞる。その感触と言うもの、指で解るほどに柔らかくゾクリと腰に何かが走った。
嗚呼、この方が生なのか死なのか判らない。だけど、僕はこの方に触れられずに要られない。
美しい宵闇の姫君、いまだ目覚めぬ君の聖域を、僕は少しだけ侵してしまうが許して頂けないだろうか?
それは「思わず」そして「衝動」。他に何が似合うのだろう。眠り姫の唇に僕のそれを重ねた。


「、………」



柔らかい感触。
(人体より冷えた其れ。)
濡れた弾力。
(呼吸が薄い。)
鼻を霞める漆黒の香り。
(鼻腔を擽る生には無い其れ。)
酷く、堪らない。
(僕は此れを探していた。)


嗚呼!愛しい人!





そっと唇を離し瞼を開けると、姫君の麗しい顔が瞳いっぱいに移る。衝動的にもう一度触れるだけの口付けを贈り、姫君から離れた。
いまだ目覚めぬ宵闇の姫君。その美しいシルエットを瞳に焼き付け、必ず、僕の姫君として手に入れよう。
理想の花嫁は 此処に居た。


「必ず、手に入れるよ…宵闇姫。また迎えに来る、待ってておくれ」


白魚のような手を取り、その甲に近いの口付けを贈った。













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うちの王子はメルメルのことを姫とナチュラルに呼びます。
因みにメルメルは狸寝入りとかじゃなく完全に爆睡中(笑)エリーゼは復讐の物語でも探しに行ってますきっと。
一応初ご対面。


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