Nothingness





「眠れないのかい?エレフ」


時刻は深夜。皆が眠りにつく頃。
柔らかいベッドと暖かい布団に包まれながら、ぼう、と、俺は宙を見ていた。
隣に居るレオンの温もりを感じながら、それでも眠れずにいた俺に、レオンは問う。

「ん…ごめん、起こしたか?」

「いや、大丈夫だよ」

レオンは微笑む。多分、何度も身動ぐ俺に、目が覚めてしまったのだろう。とても申し訳なく思った。

「ごめん、もう寝るから……」

そう言って目を瞑るが、眠気は襲ってこない。
寧ろ、ぐるぐると色々考えてしまい頭が冴える。罪悪感とか、愛しさとかが全部溢れて眠ることは難しい。孤独と虚無と、愛と幸せに、俺の頭は混乱する。
レオンはそんな俺の様子が解ったのか、優しく頬を撫でた。

「エレフ、いいんだよ無理に寝ようとしなくても。エレフが寝るまで、私も付き合おう」

レオンの優しい声が鼓膜を刺激する。同時に、優しく抱き締められた。胸元に顔を埋め、しっかりとレオンの匂いを感じる。愛しい、匂いだ。
俺はレオンに擦り寄った。

「………俺、今、幸せだぁ…」

「そうかい?私も嬉しいよ」

「うん、幸せ。幸せ過ぎて………ミーシャのことも忘れてしまいそう………」

「………」

忘れてはいけないこと。
ミーシャ…愛しの妹。妹は、アルカディアの犠牲になって、この世を去ったのだ。
憎きアルカディア。それは忘れてはいけないこと。俺は敵を取らなければいけない、愛しの妹のために。
なのに、アルカディアの王は、俺の目の前にいる、愛する人で。俺は、どうしていいかわからない。

「俺、自分が幸せを感じる度に、申し訳なくて仕方ないんだ」

「………うん」

「ミーシャは……きっと、辛かっただろう。だから、俺ばかり幸せを感じちゃいけないんだ……」

「エレフ………」

――幸せと、虚無の間に、揺らぐエレフセウスの心。
――愛しさと憎しみの間で揺れる、アメティストスの心。

どちらも俺だ。だけど、別だ。

「どうしよう、レオン……レオン…俺、レオンを憎まなきゃいけないのに……」

愛しくて、仕方ないんだ。

カラカラに渇いた俺の心に、潤いを与えてくれたのはレオン。愛を忘れていた俺に愛を与えてくれた、俺の恋人。
でも、憎き、アルカディアの王。
堂々巡りで答えが出ない。壊れてしまいそうだ。どうしたらいいのか、検討もつかない。幸せで、苦しい。

「………レオン……、俺、どうしよ………」

答えが出ない。
アメティストスとエレフセウスの感情が行き交う。二つの感情で、壊れてしまいそうだ。
いっそ俺が死んだらいいんじゃないかと思えるぐらい。
そんな様子を察したのかな、レオンが少し厳しい口調でこう言った。

「エレフ、死ぬなんて考えてはいけないよ?私も、君も、もう一人ではないのだから」

「…………っ」

「皆のために生きなければならない。勿論、私のためにも生きていておくれ……命は尊いものだ。だからこそ、ミーシャのことで悩んでいるのかもしれない……だから私も悩もう、唯一の妹のことを……」

―――私達は、唯一無二の兄弟で、恋人なのだから……だから、一人で悩まないで。

そう言って、涙に濡れる俺の瞳、瞼に口付ける。
暖かくて、愛してくれているんだと実感できた。

ああ、やっぱり幸せだよ、俺。だから、涙が止まらないんだ。
レオン、愛してる、どうしよう、ごめん、ミーシャ。
涙も気持ちも止まらないんだ、初めて、こんなにも俺を受け入れてくれた人だから。何もかも知って、それでも俺を愛してくれた人だから。
俺も、愛してしまったんだ。

オルフは、ミーシャが俺を許してくれるって言っていたけど、それは本当だろうか。

ああ、ミーシャ、アメティストスよ、もう少し、考える時間をください………。


幸せと苦しみに追い詰められながら、俺はレオンの胸で静かに眠りについた。


















何が言いたかったかと言うと、私はアメティストスとエレフは別物と考えているってことが言いたかったんです。二重人格的な。
アメは冥王寄りで、憎しみと怒り以外の感情に冷めていると考えています。エレフはエレフです。泣き虫なエレフ。

これに関しても何か書きたいなぁ…。


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