気付いてしまった
まだシリウスとオルフがくっつく前の話です。
ので限り無くシリオルに近いシリ+オル。
オルフがなかなか部屋から出てこないから連れ出してきてくれ。
そう大将から命が下ったのは先ほど。
だけれど、大将に忠実なオルフがそんな行動を取るなんて余程のことがあるんだろうと思い、俺はそっとしておくのが懸命だと思ったのだが、大将はそれを許してくれないらしい。
仕方なくオルフの部屋の前まで出向くが、そこからが気が引ける。
「…………」
オルフの部屋の扉の前で軽く途方に暮れる。でも大将の命令は絶対。守らなければいけないこと。
軽く溜め息を付き、部屋の扉をノックした。
「オルフ、シリウスだ。居るか?」
「………………、はい、居ますよ。どうぞ」
少しの間を置いて、案外普通に、オルフの返事は聞こえた。
とうぞ、と言われたからには、部屋に入っていいと言うことなのだろう。ゆっくり扉を開けた。
開けた先には、ベッドに腰を掛け、何事もないようなオルフの姿。その姿を見て俺はほっとした。
「なんだ、元気じゃんか」
「ええ、少し体調を崩してましたが…今は、元気ですよ」
にこりと笑ってそう答えるオルフ。この時既に、俺の中には違和感があった。
オルフは、俺に対して、こんなに素直に笑顔を見せる人物だったか?
違和感は疑問になり、やがては確信へと変わる。きっと何かがあった、と。
「オルフ、何かあっただろう」
「え?何もありませんよ」
「なら、その張り付いた笑顔を止めろ」
俺に対する笑顔が不自然すぎる。彼はこんな純粋に、自分を晒さない。ならばその笑顔は本当のものではなく、紛い物に過ぎない。そんな笑顔なら見たくはない。
オルフを見つめながら、じっと答えを待った。
「何もありませんよ、ホントに。何を言ってるんですか」
「嘘をつけ、そんな、悲しそうな笑顔をしてるくせに」
「嘘じゃないです。ホントです。何も、ない、です、から…」
瞬間、オルフの瞳から涙がホロリと零れた。
泣くつもりなんて毛頭なかったのか、直ぐにオルフは腕で涙を拭う。しかし俺はしっかり見てしまった。その涙を。
「オルフ…?」
「っ何もない、何もないんです!っ帰ってください…!明日はちゃんと、普通に顔を見せますから…!」
顔を伏せて、オルフは俺の胸を押した。
突っぱねる腕から“もう自分の中に入ってこないで”という言葉がオルフの心から聞こえたが、そうするわけにもいけない。
こんなとき、自分が世話焼きなんだなと自分自身少し呆れそうになる。が、これが俺だ。
「オルフ…」
「っ帰って、お願いだから!」
「その願いは、叶えられないな」
そうして俺は、オルフの両頬を掴む。そして半ば強引にぐいと顔を上に向かせた。俺と目が合うように、ガッチリと固定して。
涙に濡れた蒼い瞳が俺を見る。
「っシリウス…!」
「うん、あんな作られた笑顔よりも今の方が全然いいよ。泣きたいときに泣いた方がいい」
感情を露にしてくれた方が、隠されるよりずっといい。
隠されるのは昔から嫌な性格だったし、俺はへらりと表情を緩め改めてそう思った。
「離して、ください!」
「何かあったんだろ?お前が大将のとこにも顔を見せないってことは大将のこと?」
俺の手を掴んで、顔から手のひらを離そうとするけど俺は手を離さない。
そして、大将の名前を出すと、オルフは少しだけ身を震わせた。図星か、と思う。
「大将と何かあったのか?っていうか、あの様子だと大将は気にしてなさそうだから…お前の中に蟠ってるんだな?」
「………貴方には、関係無いでしょう…」
「関係あるさ。こうやって大将から連れ出し命令が出たんだ。お前の話を聞く権利はある」
そしてゆっくりと手を離した。
オルフは顔を下げることはしない。じっと俺の目を見ている。
俺はニコリと笑って、ズカズカとオルフの部屋に乗り込んだ。
あまりの不躾さに、オルフは唖然とするしか出来ない。そんな様子も気にせず、俺はその辺の椅子に腰を掛けた。
「よし、お前聞き出さないと言わないだろうし。俺が話を聞いてやるよ」
「何を勝手に…迷惑ですよ」
「迷惑でもいいさ、このままだとお前隠しちゃいそうだし。溜めるのは体に良くないぞ」
「ホントに………貴方って人は…」
軽く溜め息をついて、俺からそう離れてないベッドの上にオルフは腰を掛けた。
「…大したこと無いですよ?」
「うん、いいよ」
「あと、引かないでくださいね?」
「だから大丈夫だって」
「大したことないんです…ただ、………エレフの恋の背中を押してから………エレフへの少しの恋心に…気付いただけなんです」
そう言って、自嘲気味に笑いオルフは視線を落とす。
「エレフに、幸せになりなさいといった矢先に…嫉妬してしまったんです」
「それで?」
「これって、とても失礼なことじゃないですか……。エレフに会わせる顔がなくて、悩んで考えて、…今に至ります」
そのままオルフは口を閉じ、自らの手を組みギュッと握る。
軽蔑、そんな女々しいことで、くだらない。そう俺に思われるんじゃないかという気持ちがグルグルと渦巻いている、そんな表情をオルフはしていた。
俺からしてみればそんなことすら思わなかったというか、オルフがそんな恋愛と言うもので悩んでいることの方が新鮮で、女々しいなどということは気になりもしなかった。男同士だと言うことも気にしてそうだが、恋愛感情と言うものは性別捕らわれず自由だと思っている俺としては無問題。
でも悩んでいることには変わりなくて、掛ける言葉を探すが出てこない。
そう言えば、こういった相談事は滅多に受けないため、返すうまい言葉も出てこない。探してる内に時間は過ぎてしまうもので、あまりオルフを待たせると不安要素を増やす一方だ。
なので、気が付けばオルフの頭に手が伸びていた。ぽすぽすと、軽く頭を叩く。
オルフは、何事かと俺を見た。俺も自分の中で何事かわかっていないのに。
「そっか、大将のこと、好きだったんだな。お前凄い尊敬してたもんなぁ大将のこと」
「…当たり前です、あの方は私に希望をくださった張本人ですから」
「だったらさぁ、奪っちゃえばいいんじゃない?」
「………はぁ?」
せめても、と俺は極論を出した。
オルフは何を言ってるんだ?という表情をするけれど、悩むよりは行動に移しちゃえばいいんじゃない?と言うのが俺の論。
そうすれば、オルフも幸せになれるじゃないか。
チクリと、胸の奥が痛んだ気がする。
「………それも、一つの案ですよね…でも、私はエレフの幸せを祈っているのです…幸せを奪う真似は出来ません」
そう言ってオルフは、幸せそうな、悲しそうな笑顔を作った。
何て表情をするのだろう、目の前の男は。
こんな悲しい笑顔を見たいわけではないのに。俺は、大将もだけど、オルフの心からの笑顔を見たいのに。
俺なら、こんな表情をさせないのに。
「―――!?」
「シリウス…?」
今、俺は何を思った?
何かとんでもないことを考えなかったか?
オルフの怪訝な表情すら、今の俺には気付けなかった。
「シリウス…?只でさえ馬鹿なのに益々馬鹿になりましたか?脳みそのシワは何本ですか…?」
「本気で心配するような表情と声色でその言葉はないだろうよ」
まぁオルフの一言で、一瞬にして現実に引き戻されたわけだけれど。
けれど、オルフがここまで軽口を叩けるようになったのならもう大丈夫なのだろう。
よし、と満足げな笑みを浮かべた。
「もう大丈夫そうだな」
「ええ…話したら少しスッキリしたみたいです。ご心配お掛けしました」
「ん、その台詞、大将にも言ってやれよ」
行くぞ、と、椅子に腰かけたままのオルフに手を差し伸べる。取り敢えずオルフを連れて大将のところに行かなければならない。
オルフは少し戸惑った表情の後その手を取り立ち上がる。
そしてオルフは口を開いた。彼には珍しい、自信の無さげな声色だ。
「あ、の…」
「ん?何だ?」
「………ありがとう、ござい、ます…」
照れたような表情でそう言うオルフに、俺は面食らった。
もうこいつと暫く一緒にいるけど、お礼を言っている場面なんて大将の前以外見たことがない。
「………いやいや、どーってことないけど…お前、大将以外にお礼って言えたんだな」
「失礼ですね、私にだって感謝する気持ちぐらい残ってますよ。それが例え脳みそのしわのないシリウス相手でも」
「感謝する気持ちがあるんじゃなくて残ってるって時点でごく少数なんだな。それに脳みそにしわあるし!」
そう悪態つきながら、ずっと俺の手を離さないオルフが。
少し可愛いと思ってしまったんだ。
終
シリウスのやきもき劇場!
オルフは多少シリウスのことが気になってますが、シリウスは仲間の感情しか持ってません。でも今回で少しオルフのことを気になり始めました。
話の流れ的には
星空の夜に→“これ”→泣きたい日→そのてでつかんで。
って感じかしら?
多少辻褄の合わない部分もありますが、まぁご愛敬ということでお願いします
泣きたい日→そのてでつかんで。の間でシリウスがオルフのことを完全に好きと確信するわけですが、その経緯もまた書きたいですね。