Love you





弱ったレオンティウス様注意報。
















珍しく、エレフからレオンに会いに行くとカストルが部屋を案内してくれた。
もはや奴隷軍大将としてじゃないときのエレフは安全だと思ってくれているのだろう。エレフにとってはとても有り難いことだ。エレフとしても寝首をかこうなんてことは毛頭も思っていない。

「レオン、いるか?」

心中カストルに礼を言い、無遠慮に扉を開ける。ノックも知らない不躾さだが、まぁそこがエレフらしい。
部屋を見回すとレオンは鎧を脱ぎ捨てた普段着で、ベッドの上に転がっている。

「レオン?寝てるのか?」

パタリと扉を閉め、声をかけても動かないレオンに近寄る。
まさか死んでるんじゃないかと不安に思い、レオンの鼻と口の近くに手を翳す。呼吸はあった。
よく見ると胸は上下に動いて呼吸をしっかりしていて、エレフは良かったと胸を撫で下ろした。
ぽすりとベッドの上に腰を掛けて、改めてレオンを見た。
ここまで、自らの気配を殺していないのに、目を覚まさないレオンも珍しいとエレフは思う。
余程疲れているのかな、仮にも王という身分だと言うことを忘れがちになってしまいそうになる。お疲れさまという気持ちを込めて、起こさないように頬に触れる。
が……


「っ、熱っ……!」


触れたレオンの頬がじんわりと熱い。よく見ると顔も赤い。
即座にエレフがレオン額に掌を当てると、エレフでもわかるぐらいの発熱が確認できた。

「………ん、……」

エレフの一連の動きに意識が覚醒したのか、レオンが身動ぎ小さく呻き声を上げ、そして瞼を上げた。そしてぼんやりとエレフを眺める。

「……、エレフ…?」

「レオン、大丈夫か!?お前凄い熱だぞ!」

「……熱…」

レオンは意識もあまりしっかりしていないようだ、呟いたあと、辺りをゆっくりと見た。この様子だと、自分がいつ寝たのかもわかっていないような、そんな状態だ。
誰かを呼ばないと、とエレフはベッドを立った。

「待ってろ、今カストルさんを呼んでくるから!」

「………エレフ…」


レオンがエレフの名を呼んだ瞬間、エレフの視界がグラリと反転する。微かに、右手首を掴まれた感覚と一緒に。
うわ、と声を上げエレフは目を瞑った。
倒れる、とは思ったがさほど衝撃はなく、気が付けばエレフはレオンに抱き締められていた。エレフは見事にレオンに引っ張られ、ベッドに崩れ落ちた、ということだろう。
仰向けに寝ているレオンに覆い被さる形のエレフを、レオンはぎゅっと抱き締めた。

「れ、レオン…?」

「エレフ……置いて、いかないで…くれ…」

エレフの肩に顔を埋め、レオンは弱々しく呟く。
それはエレフの初めて見たレオンの姿で、内心ドキリと胸が高鳴った。しかしそんな場合ではないと、ドキドキを残したまま言葉を発する。

「ひ、人を呼びに行くだけだから……」

「………」

それでレオンは首を横に降り、ぎゅう、とエレフを離さない。

(何か、様子がおかしい…)

エレフはそう思った。
ドキドキと鳴る心臓をなんとか落ち着かせ、ふー、と体の力を抜く。
結果的にエレフの体重をほぼレオンに預けしまうわけだから、重くないかと心配になるが、それどころではない。
エレフもきゅっとレオン擦り寄る。

「レオン、何かあった?」

エレフが問う。

「無理にとは言わないけど、何かあったなら言って欲しい…」

「…………」

「俺、レオンの力に、なりたい、な」

途切れ途切れに紡ぐ言葉は、実は凄く恥ずかしい。
しかし照れている場合じゃない、こんな“弱った”レオンなんて、見たことがない。
熱で意志が弱くなってるのは承知、だがそれ以上の何か理由がある筈。それを吐き出させなければいけない、エレフはそんな気がした。

「………」

「レオン…?」

「………、……」

息のつまり具合で、あ、と思う。
なんとなく、自分がよく泣く性格だから、なんとなくだけど、エレフは察した。
エレフを抱き締めるこの位置からではレオンの顔は見えないけれど、ふと、レオンの手に力が入った。それが確定の証しと言って間違いないだろう。
そして、これもなんとなくだけど、先程考えた“これ程弱ってしまうほどの何か理由”も無いのではないか、とエレフは思う。
だから問われてもレオンは答えられないのだ。理由が無いから。それでも吐き出させなければいけないことに変わりはない。

「………」

エレフは無言でレオンの胸に擦り寄った。耳に、鼓動が響く。熱のせいか少し早めだけれど、ちゃんと生きている音。
それを感じながら目を瞑る。


レオンは、今はアルカディアの王。
小さい頃から、父や母に愛されながらも、王位継承のことについての争いがあったに違いない。
それで出来た心の闇は計り知れない…


(そりゃ、俺だって不幸な転落人生を送ってきた自信はあるよ?)


だけど、不幸の度合いなんて比べてはいけない。
本人が辛いと思えばそれは立派な“不幸”で、“暗闇”なのだから。
レオンの暗闇は、誰にも言えず一人で大きくなって、そして今、熱と言う理由で放出されようとしている。
ならば、支えてやるのがエレフの役目だろう。


(ミーシャ、見ててくれ…お兄ちゃん頑張るからな)


エレフは心でそう言った。





「……レオン、レオン、顔、見せて」


少しの沈黙を破り、エレフはレオンに語り掛ける。
レオンは動かない。

「俺、レオンの顔、見たい」

「………」

「出来るなら、でいいから…」


間を開けて、レオンの、エレフを抱き締めていた手が緩む。
いいのかな、と思いゆっくりとエレフはレオンから体を離した。
そして彼の顔を見ると直ぐに瞼に唇を落とす。何度も。
時々、その雫を拭うように舌先で目尻を舐めると塩辛い味がした。
初めて見たレオンの涙に、愛しくて、苦しくて。エレフも泣きそうになるがグッと堪える。

「レオン…」

最後に、レオンの唇にエレフのそれを重ね直ぐに離すと、今度はエレフがレオンを包むように抱き締めた。
愛情は沢山受けている筈、だから包容の必要はないかもしれないけれど、エレフはこれしか思い付かなかった。自分がしてもらって嬉しいことは、大抵、他人も嬉しいものだから。

「ごめんな、俺、これぐらいしか出来ない…」

―――ここにいるよと、ぎゅっと。

「何をしていいかわかんないけど…俺、離れないから」

―――いつまでも一緒だ、と微笑んで。

「レオン、愛してる」

「………っ、!」

途端、レオンの呼吸が変わった。
これはエレフも体験したことがある。息が詰まるような、涙が止まらないときの呼吸。
声を殺して、今、エレフの胸の中でレオンが泣いてるのだ。
エレフはとてもとてもレオンが愛しくなる。これはきっと、自分にしか見せてくれない姿だろう。と思う。
愛しさと同時に、切なさも込み上げた。ここまで、レオンは溜め込んでいたのだ。
闇を。苦しみを。


「レオンっ、気付かなくてごめん俺しか見てないから、聞いてないから、いっぱい泣け…!」

「………、…っエ、レ…っふ……」


レオンが、エレフの名を途切れ途切れに紡いだ瞬間に、彼の…レオンの意識が途絶えた。
いや、やっと彼は眠りにつけたのだ。


(良かった……)





レオンティウスを強いと言ったのは誰だろう?彼は、こんなにも弱いのに。
抱き締めて離さないようにしなければ、こんなにも思い詰め、闇に溺れてしまうのに。

せめて、自分だけでも、本当の彼を見ていたいと願いながら…

エレフは眠りについた……。



















皆を泣かそうキャンペーン第一段。

ってかあれ、エレフさん、熱出てるレオンさん放置で寝ちゃうんですか。

それは置いといて(笑)
弱い攻めって、限りなく萌えを感じます。そしてレオンを泣かせてみたかった私がいます(笑)


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