One person





シリオルでシリアス。
弱ったオルフ注意。











ああ、まずい。
ふらつく頭でオルフはそう思った。


先程の戦いで腕に怪我を負い、足首を痛めてしまったオルフェウス。
負った傷のせいなのか、多分熱も出ているのだろう。体がだるく感じている。
目に見える傷が腕の傷しかない、しかしある程度血が滴ってしまうような傷なので、大丈夫ですか?と自分の部隊の隊員に心配される始末。
しかしここで駄目だということが出来るわけもなく、一言「大丈夫」だと返すと、腕の傷だけなら大丈夫だと皆納得してしまうのだ。オルフにとっては幸か不幸かわからないが。
大丈夫だといった手前ふらつくわけにも行かず、揺れる視界を支え精一杯平静を保っていた。
戦は一時終ったが、まだ見回りという役が残っている。しかも部隊の面々がかなりいるので弱ったところを見せられない。


―――ズキ、ズキ、ズキ


足と腕が熱を持ち、脈を打つ。
顔が火照り、思考が少しずつ拡散する。

(参りましたね…)

オルフは、体に籠った熱を発散するかのように小さく溜め息を吐いた。

「オルフ」

突然、後ろから声を掛けられた。
驚いて、バッと後ろを向く。するとそこには見慣れた人物、シリウスの姿があった。
まさか背後の気配に気付かないほど集中力が落ちてるとは。オルフは内心だけで歯噛みをする。

「シ、リウス…ですか」

「いや、お前の部隊の隊員から腕を怪我してるみたいって聞いたから気になって…大丈夫か?」

シリウスがその怪我の様子を見ようと手を伸ばす。
すると、体に触れる前にオルフの体がビクリと震えた。思わず体を一歩下げる。
一歩下げたその足は不幸にも痛めた足で、ズキリと酷い痛みが襲った。しかしよろめくわけにも行かず、オルフはグッと堪える。
腕の傷は仕方ない、しかしこの足の負傷と発熱は知られてはいけない。心配掛けてはいけない。足手まといと、思われたくない。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。何に怯えているか知らないが、今はどこか、オルフは全てにおいて敏感になっていた。
そんなオルフの様子に、シリウスは差し伸べた手を泳がす。

「す、みません…大丈夫ですから…心配しないで」

「……」

そう言われるとシリウスは無言で手を下げる。
オルフは精一杯笑顔を作り、傷付いた腕を掴む。仮面を被るのは昔から慣れていた。
早く、気付かれないうちにこの場から…シリウスの前から去らなければ…。とオルフの脳が告げるが、足が覚束ない。
気をしっかり立たせるために、血の滴る傷を強く握る。再び熱い息を吐き出す。すると…

「っ、ぅわ……!」

「しっかり掴まってろよ」

オルフの視界が一気に変わった。
何事かと思えば、シリウスの顔が妙に近くて、足が地面についていなくて、つまりはシリウスに横抱きにされているわけで。
その事実に気づいた瞬間、熱が顔に集中するのがわかった。ジタバタと暴れたかったが、体調不良のせいでうまく抵抗できない。

「下ろして、くださいっ!」

「だってお前、腕の傷も酷いけど、足も痛めてるだろ?骨折れてるといけないからよ。それに熱もあるっぽいし」

「……っ!?」


気付かれてた!?と、オルフの体が強張る。隠しきれると、いや、隠しきってやると思っていたのに、と。
そんなオルフをよそに、部隊のメンツに体を向けるシリウス。
オルフの熱が一気に下がった気がした。そうだそうだった、まだ隊員がいるんだ、と思い返す。そして自分がとんでもない格好をしてることも思い返す。
同時に、今自分が負傷していることを隊員に告げられたくない、とオルフは慌てた。

「シリウス、っ!お願いだから…」

「大丈夫、負傷してることは言わないから」

言わないで、続ける間もなく、シリウスはオルフにだけ聞こえるように耳元で囁き、にこりと笑う。
オルフは少しだけホッとして体の力を抜く。この時点で横抱きにされている事実は変わっていないのだが、オルフはそこまで気が回らなかった。

「えーっと、オルフの部隊の皆様、我らが大将アメティストスがオルフを必要としてるみたいです、ですが全力でオルフが抵抗するのでこんな形でかっ拐いたいと思いまーす、姫抱っこですが仕方ないことでーす」

陽気にシリウスがそう言うと、っと笑いが起こり、皆からどーぞどーぞと声が上がる。
これは別の意味で恥ずかしいと思ったオルフだったが、シリウスに身を預けることにした。




―――――――――――――――




「……腕の重度の擦り傷、足は…折れてはいなかったが腫れ上がるほどの捻挫、傷が原因の発熱…熱は39度3分」

「………」

「何で黙ってた、オルフ」

場所は移りここはオルフの個室。そこでシリウスはオルフの手当てをしていた。
いざ蓋を開けてみればこれは誰がどう見ても重症患者のオルフで、本来ならばそれ相応の休養が必要だろう。

「大丈夫だと思って死ぬこともあるんだぞ?無理をするな」

傷の手当てをしながら、シリウスは静かにだが珍しく怒る。彼は滅多に怒ったりしない。
オルフはいくつかある奴隷部隊の、その中の一つの隊長、になっている。だからこそ言えなかったことと、だからこそ言わなければいけなかったことが混在していることは重々承知。
シリウスも一つの部隊の隊長なのでよくわかっている。
だからこそ、怒っているのだ。

「オルフ。隠すな…お願いだから」

「……………」

「奴隷だったときとは違って、俺達は一人じゃないんだ。隊員に言いにくいなら俺でもいい、俺でも駄目なら大将でも、誰でもいいから、一人で悩むな」



な?と、シリウスが微笑む。


優しくしないで。と、オルフはそう思った。
優しくされると、どうしていいのかわからないのだ。オルフは今まで、一人で生きていたから。


ぼろぼろと、オルフの瞳から涙が溢れる。シリウスはその涙を見ると、微笑んだまま頭を撫でそして抱き締めた。

「、ぅ……っ」

「よしよし。いいよ、熱のせいなんだから存分に泣きな」


背中を撫でる手が優しくて。また、すがってしまった。情けない姿を晒してしまった。
オルフの中に暖かさと苦しさが混ざり合い、またそれが涙として流れていく。
そうしてオルフはシリウスの肩に額を押し付けて泣いた。この涙は熱のせいだと言い聞かせながら……











「何で、貴方はわかってしまうんでしょうね………」


暫く時間の経った後、オルフは鼻を啜りながらポツリと呟いた。


「なんでって、そりゃあんだけ様子が違えば何かあったかは一目瞭然だろう。んで、原因を見つけるために観察してたらわかったんだよ」

「はは、流石ですね……」

「辛そうだな、寝るか?」

「ん、………もうちょっとこのまま…」


そう言ってシリウスに小さく擦り寄る。
いつもは言わないようなことを言い、いつもはしないような行動をするのは熱のせいなのか……シリウスはオルフに気付かれないように早まる鼓動を隠す。
このままでは、ちゃんと休養させなければ悪化する一方なのに、シリウスの欲が邪魔をする。


あと数分、このままにして、その後ちゃんと休ませよう……


シリウスは少し欲に負け、そう思った。











隠すタイプだよねオルフは、って妄想。
オルフをよく泣かすのは私の趣味です(ぁ




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