闇乃宴



※青髭×王子で愛無し
※王闇前提描写が最後の最後に出てきます







死臭漂う異質な部屋。この空間だけまるで違った。
正常な者なら狂っても可笑しくない、そんな部屋。言うならば、沢山の屍が無造作に吊るされた部屋、吊るし部屋。
良いことか悪いことか、僕も正常とは言えない趣向を持っている。故に発狂する程でも無かったが、やはり息を飲んでしまった。

―――これは何だ、彼女達を馬鹿にするのも程が有る!

「…このような不快な部屋、造ったのは貴方ですか?」

「おや王子、不快とは心外な。貴方は屍体愛好家だと耳にしていますが?」

この部屋を半ば無理矢理案内した、青髭と称される男。名は聞いたが呼びたくもない。
青髭は、驚いた、といった動作と表情を浮かべた。同時にニタリと口の端を上げ、間違い無く僕を馬鹿にする。己の眉がひくりと動いたのが解ったが、此処で激情しても仕方が無い。身の内に潜む憤りを抑え、淡々と、ただ淡々と言葉を返した。

「これは冒涜だ。愛も美しさも感じられない。彼女達が可哀想です」

僕は確かに生者より死者の方が愛せる。
しかしそれは、死した人の人形のような美しさ、傲慢さの無い儚さ、生者には無い物、端麗されたその存在が僕の心を揺さぶるのだ。
しかしこれはどうだろう、無下に扱い美しさの欠片も無い。まるで塵でも掃き捨てるようなこの状態。おぞましい程に冷徹で心の芯から底冷えする。
愛など微塵も感じない、酷い有り様に身震いすら覚えた。彼女らを何だと思っているのだ、この男は…!
僕の内側に潜む憤りを察知し応えるかのように、さも当たり前の表情で青髭は答えた。実に不快な答えを。

「愛など感じられなくとも当たり前だ。私は彼女達を愛していないからな」

「……っ不愉快です…!」

「王子、私の動向を咎める権利は貴方に無い筈だが?」

「っ………確かに、他人の趣向をどうこう言える立場でも無い。…失礼させていただきます。もうお会いすることも無いでしょう」

今にも怒鳴り付けてやりたい衝動だったが、人間十人十色、青髭の言う通り自分が咎めるのも場違いな話だろう。僕だって褒められた性癖を持っているわけでは無い。
だからといって不愉快で仕方ない事は事実であって、この青髭の現実と幻想の狂気に付き合ってやる義理もない。
今すぐにでもこの部屋から…いや、この男から離れたかった。このような悪趣味で死者を冒涜するような男と同じ空気を吸いたくもない。

最早儀式的な社交辞令の一礼をし、青髭や可哀想な屍人姫に背を向け早々に立ち去る決意をした、―――矢先の出来事。

「――――っ!」

右腕を、青髭に掴まれた。何か嫌な予感がする。

「まぁ待ちたまえ」

「…離してください」

心身を乱さぬよう勤め、冷静に切り返す。ここで取り乱したところで良い結果は無いだろう。
じっとりと掴まれた腕が不愉快で仕方ないが、振り払うこともなく、振り返り青髭を細い目で見据えた。
青髭はまだにたりと口の端を上げ笑ったまま。

「この部屋を見られて易々と帰すわけがあるまい。クク…」

「私は人の弱味につけ込むことはしません。罪は何れ裁かれる物…貴方も例外では無い」

「……王子、貴方も相当お綺麗な顔をしてらっしゃる」

僕の言葉を粗方無視し、流れとは全く関係の無い青髭の発言に一瞬内容が頭に入ってこなかった。次第に奴が何を言ったのか理解するが、それは理解も聞きたくもなかったことで、今更ながら後悔する。
いや、理解しない方が恐ろしいのかもしれない。

綺麗だと形容されることは不快ではない。それは少なからず好意であって、好意を受けるのは喜ばしいことだ。
しかし、このような下卑た形容は、僕の許容範囲を軽く越えている。少しでも受け入れたくはない。
そろそろ冷静さを保つのに限界を感じていた。この男はそれが最初から目的だったのではないか。

「貴方に言われても嬉しくもない。それに、男色趣味もお持ちとは知りませんでした。知りたくもない」

「穴さえあれば全て同じ。私の槍で貫いてくれよう…なあ、王子?」

酷く野蛮で秩序の欠片も見えない言葉。怒りなのか気味悪さなのか畏怖なのか、全身がぞくりと総毛たった。

「っ下品な比喩はやめろ!僕を誰だと思っている…!冒涜するのもいい加減にするがいい!」

「クク…やっと本性を出したな、気高い王子」

「黙れ野獣!さっさとその汚らわしい手を離せ!今なら何も聞かなかったことにしてやろう!」

「ふははは!…易々と帰さないと言ったであろう?さぁ…宴を始めようではないか!哀れな王子よ!」

ああ、何て下劣な!
カッとなり、ついに荒げてしまった語気にすら青髭は動じることがなかった。
寧ろ、心から愉快そうに笑う。待っていたかのように、下品な大声で、高らかに。奴の瞳が既に獣のそれだった。
頭がガンガンと警告音を鳴らす。逃げなければ、と手を振りほどこうにもそれを許さない。ガシリと、武骨な手は僕をしっかり捕らえている。

ああ、不味いな。

生理的な冷や汗が流れ、無意識に体が小刻みに震える。弱味など微塵も見せたくないのに、体は僕を裏切り続けた。
そして、青髭が用意したのは何かの薬品のツンとした匂いのする布。それを瞬時に僕の呼吸気管に押し付け、突然の事に思わず息を吸い込んだ瞬間、

意識が、闇に溶けた。


(目覚めれば、地獄の宴が始まっているのだろうか。)

(嗚呼、メルヒェン……!)








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続きが有るなら完全18禁\(^o^)/
気位の高い王族気質な王子萌える…!


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