最後の時迄



―――仮に、俺がだ。
罪を裁かれ首が跳ねられるその時が有るとする。
その時、もし近くにお前が居るなら…助けてくれとは言わない。

せめて、お前の手で逝きたい そう思っただけだ。



――――――――――――




隣の気配が動いた気がして…否、気がした訳ではなく、明らかに就寝している時のそれとは違う雰囲気の彼に、僕は身を起こした。
静かな場所、二人分の呼吸音と布の擦れる音だけが鮮明に響く。

「、ユーリ…?」
「……、」

名前を呼ぶも反応が無い。狸寝入りを決め込んでいるのか、既に微睡みの中に居るのか。横たわる彼は僕に背を向けてるから、それすら確認が取れない。
仕方無いので、寝台の、純白シーツに散らばる、それに相反したかのような…漆黒と言うには淡い、宵闇のその髪に触れた。さらりと直ぐに指に馴染む黒糸は、特別な手入れをしている訳でもないだろうけど触れる度にその柔らかさに驚かされる。
毛先の方を弄っていた手を少しずつ移動させ、いつしか頭を撫でるような行為に変貌していた。

「……、…」
「ユーリ…?」

「……、んだよ…」

ふと、今まで沈黙を保っていた彼から、息の詰まるような、声と言うには音を成していないものが小さく溢れる。
再度名前を呼べば、仕方無いと言わんばかりの不機嫌そうな声が帰って来た。けしてこちらを見ない辺り、彼らしい、と思わず苦笑してしまう。

「やっぱり、起きてたんだね」
「誰かさんのお陰で、な」
「嘘。その前から起きてただろ?」

その後、小さく『やっぱお前には敵わねぇな』と聞こえた。




――――――――――――



夢を見て。
目が覚めて 考え事をした。
だからフレンに何度か声を掛けられても、全て無視しようと決め込んだ。俺は寝てるんだ、と。
然し、そのフレンは声を掛けるのを止め、彼の手が俺の髪に触れ、果ては頭を撫でたりするもんだから、何か堪らない衝動に駆られる。
撫でられる感覚に変に籠る熱。思わず詰まった息を吐くと感付かれてしまった。



―――そして、今に至る。



「昔から鈍感なくせに、変なとこだけ鋭いもんな、お前」
「それは、変に隠すユーリのお陰だよ。……考え事?」

つまりは、俺が隠すから感付くのが上手くなった、フレンはそう言っている。俺自身そんなつもり等無く、唯言う必要が無いと思っているから言わないだけなのだが。

それよりも、だ。
唯起きてしまった、だけで終わるようなこの状況に、『考え事』まで感付くお前はなんてな。…やっぱ凄ぇや。

相変わらずフレンの手は、指は、俺を頭を撫で髪を鋤くように動く。大の大人がこんな事をされ、然も不快でない、寧ろ心地が良いと言うのが最大の問題な気がするけど…この場には俺達しか居ないし、特に気にすることを止めた。

「まぁ…考え事っつーか…そんなとこだ。珍しいだろ?」
「いいや、君って結構一人で考えたりするだろ?珍しくは無いよ」
「……お見通しかよ…騎士様にゃ敵わねぇな」

横たわった自身の身体を、フレンと同じように起き上がらせる。俺はさして気にしていない髪の乱れをフレンが手櫛で整えた。
そんな彼の動きすら気にすること無く、俺はある思いをぶつける。
夢の内容、考え事の原因。誰にも言わずに墓まで持って行こうとしたが、フレンなら、いいか。





「フレン」
「ん?」
「……もし、俺が死刑になるときが来て、近くにお前が居たら……宜しくな」
「うん、わかった」

『近くに居たら、助けてくれ』と言わんばかりの俺の言葉に、フレンは迷わず頷いた。こいつの事だ、その時が有れば助けるつもりなのだろう。
然し、違うんだ。
俺が求めているのは、『助ける』と言う漠然とした救いでは無い。

そんな救いでは無く、俺が求めているのは―――




――――――――――――


君の悩みは、これか、と。改めて納得する。
死と言うものを沢山身近に感じて、その考えが出てしまったのだろう。
『宜しくな』という言葉が何を示しているのか、ユーリが何を求めているのか解らないけど、僕は『救出する』なんて生易しい救いで君を助けるつもりなんて無い。
きっと、君もそれを望んでいるのでは無いだろうか。

「ユーリの傍に僕が居るなら、僕がユーリを殺してあげる」
「……え?」

驚いた顔を僕に向ける彼。
その顔では何に驚いているのか解らないけど、僕は答えを買えるつもりは無い。その意味も含め笑顔で返した。
少しすると、驚いた紫暗の瞳が溶け表情すらも柔らかく変化する。

「凄ぇ…流石フレン。俺の言いたいことが解るのか?」

彼のこの淡い笑顔は、滅多に見れるものでは無い。
嗚呼、やっぱり君の望んだ答えだったんだね。

向かい合わせの彼に手を伸ばし、宵闇の髪に二、三度触れ、そしてそのまま抱き寄せる。けして無理矢理では無い、壊れ物を扱うようにすれば、彼も大人しく胸に抱かれてくれる。
心地好い暖かさ、それが愛しい人のだと体温だと思うと一層気持ちが良い。彼も珍しく大人しく、逆に擦り寄って来てくれるぐらいだった。

「…フレン」
「ん?」
「その時は、お前の手で、俺を殺してくれ」
「うん」
「他の奴じゃ嫌だ」
「うん」

「お前がいい、フレン…」


すがるように擦り寄って来る彼。愛しさが溢れ出しそうで、誤魔化すように宵闇の髪をさらり遊ぶ。
暫く互いの温もりを感じ合って、ふとした瞬間、ゆったりと彼の顔が此方を見た。
合図等必要が無い、まるで必然のように僕達は唇を重ねた。




(だから君も、僕がまた間違った道に進んだら、迷わず殺してくれ)
(…説得の余地が無さそうなら、俺の手で殺してやるよ。誰にも渡さねぇ)
(ははっ、頼もしいよ。宜しくね、ユーリ)
(ああ、宜しくな)





END






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存分に砂吐いてください(笑)


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