Ocean blue | ナノ
罠 02
(10/99)


ゴン達4人は2時間程待った後、新しくやって来たトンパと共に多数決の道を進んだ。
すると、行く手に闘技場と審査委員会に雇われた超長期死刑囚たちが現れた。彼らとそれぞれ1対1で戦い、5回のうち3回勝たなければ先に進めない。
そして現在、1回戦でトンパがあっさりと負けたところだった。

ドガッ

「「!?」」

突如、ものすごい音がゴン達の後方から聞こえてきた。
同時に足元を水がさーっと流れ、闘技場と通路の間にある奈落の空間へ落ちていく。

「何だ!?」

見ると、一方の壁が破壊され、そこから水が入り込んでいる。そして、床にはよく見知った少女が横たわっていた。

「セルシア!!」

クラピカは叫ぶと、誰よりも早くセルシアに駆け寄る。
レオリオとゴン、キルアも驚いてその様子を見た。

「セルシア!大丈夫か!?」

「う・・・・・クラピカ?」

髪から水滴を滴らせながら、セルシアは緩慢な動作でクラピカを見る。その目は、まるで夢の中にいるようにぼんやりとしていた。
クラピカはセルシアに外傷がないことを確認すると、壁に寄りかからせて鞄からタオルを取り出す。頭と顔を丁寧に拭った。

「早く身体も拭いた方がいい。・・できるか?」

だんだんと意識がはっきりしてきたセルシアは、少し赤くなってタオルを受け取った。

「ありがとう・・・大丈夫」

「すまないが、ここで少し待っていてくれ」

クラピカは周りで心配そうに見守っていたゴン達と闘技場の入り口付近に戻り、次の勝負について話し合った。
その結果、ゴンが2回戦の相手――セドカンと戦うことになった。

勝負の内容は、ゴンとセドカンが同時にロウソクの火を灯し、先に火が消えた方が負けというものだ。

しばらく後ろでその様子を見ていたセルシアに、クラピカが状況を説明する。

(『多数決の道』か・・・なんだか大変そう)

「これからはこの足手まといのかわりに、セルシアに多数決参加してもらおうぜ!」

レオリオがトンパを睨みつけながら言う。

「え・・でも・・」

「そうできればいいが、このタイマーは腕から外れないんでね。オレも自分の命が懸かってるからには、多数決に参加する権利がある」

「てめえ・・っ」

「よせ、レオリオ。時間の無駄だ。とにかく、我々が正しい判断を下せばいいだけのことだろう」

クラピカの言葉にキルアも同意する。

「そーそー。そんなことより、ゴンの方見てみなよ」

ゴンが持っているロウソクがすごい勢いで溶け出していた。軸に仕掛けがしてあったのだろう。
しかし、ゴンはロウソクを床に置き、強靭な足の力で一気にセドカンとの距離を詰めると、その手に握られていたロウソクの火を吹き消した。

ゴンがにかっと笑う。

「勝ち!」

(やった・・!さすがゴン!)

こうして、2回戦はゴンの勝利となった。



「よし、次は私が行こう」

クラピカは民族衣装の下に着ていた長袖を脱ぐと、セルシアに渡した。

「?」

「そのままでは寒いだろうから、着るといい」

「え、でも濡れるよ?」

「かまわないよ」

そう言うと、クラピカはさっさと闘技場へ行ってしまった。

セルシアは服を手に目をぱちくりさせる。

「へっ、キザな奴だぜ」

レオリオがにやにやしながら遠ざかるクラピカの方を見る。

「クラピカって、セルシアに優しいよね!」

ゴンは満面の笑みでセルシアに言った。

「だって、さっきセルシアが倒れてた時もすごく慌ててたし」

「そういやそうだ。珍しくな」

(・・・・・・)

セルシアは自分のびしょ濡れの格好と、クラピカの長袖を見比べた。確かにこのままでは風邪をひきそうだ。

(力、使うか)

セルシアは長袖を着た後、能力を使って自分の服についている水分を空気中へ逃がした。こうすれば服がいきなり乾いたことに誰も気づかないだろうし、借りた上着を濡らさずにすむ。

(クラピカは・・・私が女だから優しいんだよね)

私が特別とか、そういうことではなくて。

(って私…何考えてるんだろ)

セルシアはかぶりを振る。今はそんなことを考えている場合ではない。
混乱してきた思考に蓋をして、闘技場に立っているクラピカの後姿を見つめた。

クラピカの相手は筋肉隆々の身体に、なんとも形容しがたく、すさまじい顔をした大柄の男だ。
しかし、それがただの見かけ倒しであることは(レオリオ以外)全員気づいていた。

相手はデスマッチを提案し、クラピカはそれを受けた。戦いが始まり、相手の拳が床を砕く。
その時、男の背中に12本足のクモのイレズミがあるのが見えた。

「!!あれは、まさか・・・幻影旅団メンバーの証!?」

レオリオが驚愕する。

男は『旅団四天王のマジタニ』と名乗り、クラピカに向かって「負けを認めるならば今だぜ」と言った。
もちろんこれはハッタリである。

ざわっ

突然、クラピカの纏う空気が変わった。向かい合うマジタニは、何かを見て異様に圧倒されている。
すると、クラピカが一瞬でマジタニのもとへ移動し、顔をつかみ上げた。

「ま、待て!!わかった、オレのま・・・」

ドゴォッ

何かを言いかけたまま、マジタニは顔面をおもいきり殴られ、床に倒れ伏す。


「3つ、忠告しよう。1つ、本当の旅団の証にはクモの中に団員ナンバーが刻まれている。
2つ、やつらは殺した人間の数なんかいちいち数えない。3つ、二度と旅団の名を語らぬことだ。さもないと私がお前を殺す」

彼を見下ろすクラピカの目は・・・緋色に染まっていた。



「大丈夫か、クラピカ」

「ああ、私に怪我はない」

「つーか、お前に近づいても大丈夫か?」

クラピカは前髪を掻きやり、ため息をつく。その目は通常の色にもどっていた。

「わかっていたんだがな、一目見てたいした使い手ではないことくらい。あのイレズミも理性ではニセモノだとわかっていた。
しかし、あのクモを見たとたん目の前が真っ赤になって・・」

「と言うか実は、普通のクモを見かけただけでも、逆上して性格が変わってしまうんだ」

ゴンとレオリオは「あれまー」という顔をする。

「クラピカには、クモは見せないようにしようね」

ゴンの言葉に、セルシアは深く頷いたのだった。


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