Ocean blue | ナノ
二次試験と飛行船 03
(8/99)


「・・・ん」

夢と現実の境を行ったり来たりしていたセルシアは、蒼い目をゆっくりと開いた。

(いつの間に眠っちゃったんだろう・・・)

しばらく記憶を探っていると、昼間に使った能力のことを思い出した。

(そっか・・あの力を使った日は、いつもより眠りが深くなるんだよね)

ほんの少ししか使わなかったため、睡眠時間はそんなに長くならずにすんだらしい。
今の時刻は午前1時半、眠りについてから5時間しか経っていない。

隣を見るとクラピカが静かに寝息をたてていた。レオリオはよだれを垂らしている。

(ゴンとキルアは・・・?)

部屋中を見回すが2人の姿はない。

(どこにいるんだろう?・・・探しに行こうかな)

このまま寝ようとしても、心配で眠れそうにない。
セルシアはそっと立ち上がり、2人の少年を探しに部屋を出た。


飛行船の窓から見下ろせる夜景は、宝石を散りばめたようにとても綺麗なものだった。
だが、今のセルシアにその眺めを堪能する余裕はない。

(探検するとか言ってたけど、普通こんな時間までかからないよね?)

別にセルシアがとやかく世話を焼く必要はない。2人は子供だが、自分の行動に責任を持てることくらいセルシアも分かっている。
それでも、気になって仕方なかった。


しばらく歩いていると、通路の角から飛び出してきた白髪の少年を見つける。

「キルア!」

「あ、セルシア」

キルアは上半身の服を脱いで、ズボンのポケットに両手をつっこみながら歩いていた。

「何してたの?・・・ゴンは?」

キルアはネテロ会長とゲームしていたことを簡単に説明した。
その間も、手はポケットに入れたままだった。

「そっか・・じゃあ、ゴンはまだ会長と一緒にいるんだね」

セルシアが眉を寄せて言う。

「・・・セルシアってさ」

「うん?」

「ゴンの姉貴?」

「え!?」

突然の問いに、セルシアは驚きながらも否定した。

「ふーん。なんか、いつもゴンの心配してる気がしたからさ」

(・・・そうだっけ?)

「あと、ゴンを見る目つきが優しい感じだし」

「うーん・・・それは、あるかもしれない」

セルシアは弟のテンダのことを話した。行方不明の弟がゴンに似ていること。
そして自分がハンターを目指す理由のことも。

「うわ、本当にそっくりだなー!」

ロケットの写真を覗きこんだキルアが笑う。

その顔を見た瞬間、セルシアはキルアの様子が少しおかしいことに気づいた。

「キルア・・・もしかして怪我してる?」

「?いや、してないけど」

「そう・・・なんか、様子がいつもと違う気がして・・・それに、血の匂いがする」

キルアの顔が一瞬固まる――少なくとも、セルシアにはそう見えた。

「あー…さっきのゲームでどっか擦りむいたかもな。んなはっきり匂いすんの?」

「うんまあ、少しだけ。そういうのにはけっこう敏感だと・・思う」

「自信なさそーじゃん」

そう言いながら笑うキルアは、やっぱりどこか不自然な気がした。

「怪我してるんだったらちゃんと消毒しなきゃ。レオリオが救急セット持ってるよ」

「だいじょぶだって。…それよりさぁ」

「何?」

「もしさ、オレの両親が・・・殺人鬼だって言ったら、どうする?」

セルシアは面食らった顔をして、言った。

「両親とも?」

「・・・・・・・」

キルアがぽかんとしてセルシアを見つめる。それから肩を揺らして、大声で笑い始めた。

(何故に大笑い・・・?)

「あははは!―もう最高っ!!つーか絶対ゴンと姉弟だろ!?2人して同じこと言うとか!!」

(え、そうなの?)

キルアはよほどツボにはいったらしく、涙目で笑い続けている。さっきまでの不自然な感じは消えていた。

(よくわかんないけど・・・良かった)

「ってか、笑いすぎ!」

「あー、悪い悪い」

「もう寝た方がいいよ。今は元気でも、明日もたなくなるから」

やっと笑いがおさまったらしいキルアは「そうだな」と同意した。

「オレ、ちょっとトイレ行くから。先に部屋戻ってて」

「分かった」

セルシアは頷いてもと来た道を引き返して行く。


キルアは、その後ろ姿をしばらく見つめていたが、やがて踵を返して水道へと向かった。

そして蛇口をひねり、ポケットから手を取り出す。その爪にべっとりついた血を、水で洗い流し始めた・・・。


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