二次試験と飛行船 03
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「・・・ん」
夢と現実の境を行ったり来たりしていたセルシアは、蒼い目をゆっくりと開いた。
(いつの間に眠っちゃったんだろう・・・)
しばらく記憶を探っていると、昼間に使った能力のことを思い出した。
(そっか・・あの力を使った日は、いつもより眠りが深くなるんだよね)
ほんの少ししか使わなかったため、睡眠時間はそんなに長くならずにすんだらしい。
今の時刻は午前1時半、眠りについてから5時間しか経っていない。
隣を見るとクラピカが静かに寝息をたてていた。レオリオはよだれを垂らしている。
(ゴンとキルアは・・・?)
部屋中を見回すが2人の姿はない。
(どこにいるんだろう?・・・探しに行こうかな)
このまま寝ようとしても、心配で眠れそうにない。
セルシアはそっと立ち上がり、2人の少年を探しに部屋を出た。
飛行船の窓から見下ろせる夜景は、宝石を散りばめたようにとても綺麗なものだった。
だが、今のセルシアにその眺めを堪能する余裕はない。
(探検するとか言ってたけど、普通こんな時間までかからないよね?)
別にセルシアがとやかく世話を焼く必要はない。2人は子供だが、自分の行動に責任を持てることくらいセルシアも分かっている。
それでも、気になって仕方なかった。
しばらく歩いていると、通路の角から飛び出してきた白髪の少年を見つける。
「キルア!」
「あ、セルシア」
キルアは上半身の服を脱いで、ズボンのポケットに両手をつっこみながら歩いていた。
「何してたの?・・・ゴンは?」
キルアはネテロ会長とゲームしていたことを簡単に説明した。
その間も、手はポケットに入れたままだった。
「そっか・・じゃあ、ゴンはまだ会長と一緒にいるんだね」
セルシアが眉を寄せて言う。
「・・・セルシアってさ」
「うん?」
「ゴンの姉貴?」
「え!?」
突然の問いに、セルシアは驚きながらも否定した。
「ふーん。なんか、いつもゴンの心配してる気がしたからさ」
(・・・そうだっけ?)
「あと、ゴンを見る目つきが優しい感じだし」
「うーん・・・それは、あるかもしれない」
セルシアは弟のテンダのことを話した。行方不明の弟がゴンに似ていること。
そして自分がハンターを目指す理由のことも。
「うわ、本当にそっくりだなー!」
ロケットの写真を覗きこんだキルアが笑う。
その顔を見た瞬間、セルシアはキルアの様子が少しおかしいことに気づいた。
「キルア・・・もしかして怪我してる?」
「?いや、してないけど」
「そう・・・なんか、様子がいつもと違う気がして・・・それに、血の匂いがする」
キルアの顔が一瞬固まる――少なくとも、セルシアにはそう見えた。
「あー…さっきのゲームでどっか擦りむいたかもな。んなはっきり匂いすんの?」
「うんまあ、少しだけ。そういうのにはけっこう敏感だと・・思う」
「自信なさそーじゃん」
そう言いながら笑うキルアは、やっぱりどこか不自然な気がした。
「怪我してるんだったらちゃんと消毒しなきゃ。レオリオが救急セット持ってるよ」
「だいじょぶだって。…それよりさぁ」
「何?」
「もしさ、オレの両親が・・・殺人鬼だって言ったら、どうする?」
セルシアは面食らった顔をして、言った。
「両親とも?」
「・・・・・・・」
キルアがぽかんとしてセルシアを見つめる。それから肩を揺らして、大声で笑い始めた。
(何故に大笑い・・・?)
「あははは!―もう最高っ!!つーか絶対ゴンと姉弟だろ!?2人して同じこと言うとか!!」
(え、そうなの?)
キルアはよほどツボにはいったらしく、涙目で笑い続けている。さっきまでの不自然な感じは消えていた。
(よくわかんないけど・・・良かった)
「ってか、笑いすぎ!」
「あー、悪い悪い」
「もう寝た方がいいよ。今は元気でも、明日もたなくなるから」
やっと笑いがおさまったらしいキルアは「そうだな」と同意した。
「オレ、ちょっとトイレ行くから。先に部屋戻ってて」
「分かった」
セルシアは頷いてもと来た道を引き返して行く。
キルアは、その後ろ姿をしばらく見つめていたが、やがて踵を返して水道へと向かった。
そして蛇口をひねり、ポケットから手を取り出す。その爪にべっとりついた血を、水で洗い流し始めた・・・。