死体の温度





杏子の腕は柔らかかった。自分のものより少し細い腕。深い赤い髪がたくさんたくさん散らばって。
「ゾンビのくせに、温かいなんて」
さやかはそう言いながら柔らかい腕を引っ張る。
杏子はそこでさやかを見上げた。杏子のまあるい瞳の中に自分の顔がうつり、ああ、とさやかは溜息を漏らす。あたしってなんて汚らしいんだろう。
杏子は喋らない。そうさやかが頼んだからだ。ねぇ、死体らしく振る舞ってよ、あたしたちはもう死んでいるんだからりんごなんて食べないで!そう叫び杏子の手からりんごを叩き落とした。
ホテルの絨毯の上に転がったまあるい赤いりんご。
「いいよ。さやかがそう言うんなら」
それから、杏子は黙った。
黙ったまま二時間近くが経つ。
その間さやかは杏子の身体のパーツをひたすらに触っていた。
その暖かさが嫌だった。杏子の手を握ると、お互いの体温でじわりと汗が滲む。偽物なのに!偽物なのに!こんな温度は嘘っぱちなのに!
「なぁ、さやか」
「何よ…喋るなって、言ったでしょ」
杏子が薄く、困ったように微笑んだ。普段のがさつな行動とは釣り合わない。そして人間みたいな表情だった。
杏子の瞳に写るさやかの驚いた表情もまた、人間みたいでさやかは気分が悪くなる。
杏子がそろそろとさやかに指を伸ばす。あ、冷たい、とさやかは呟いた。
杏子の指先より、さやかの首裏のほうが温度が高いのだ。
「なぁ、さやか」
「何」
「ゾンビ同士、一緒にいようよ。一緒にいられるよ」
何を、馬鹿な事を、と思い返事をするのも億劫でさやかは杏子を無視した。それでも杏子の指先はいつの間にかさやかの首裏の温度と代わらない熱を持っていた。



さや杏さや。
アニメがきついので幸せなさや杏さやが書きたい!はずだったのに…


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