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※死ネタ注意

New Romantic Way


「銃もさ、普通の弾だったからダメだと思うんだよね。ホローポイント弾とかどうだろう?身体の中で爆発するタイプだからさすがにダメージ食らうかな。外からの攻撃より内側に向かうほうがシズちゃんには効くと思うんだ」

波江さんそう思わない?と続けて顔を上げたが、優秀な秘書からの返事はなかった。無視なんてひどいですぅ!ぷんぷん!……うん自分でもキモいって解っててやってるからそんな目を向けないで欲しいなぁ。
俺はシズちゃんの殺害方法を書き連ねていた紙の上でペンを回した。彼の殺し方を考える時、小学生が完全犯罪を夢見るようなな興奮と胸の高鳴りが確実にそこにある。

「ねぇねぇ波江さんはさ、ぱんって爆発した肉片に興奮する?」
「……するわけないでしょ」
「それが誠二君でも?」
「答える必要はあるのかしら」

あ、興奮するんだな、と思ったが俺は口には出さない。波江は話は終わりだとばかりにファイルを閉じ立ち上がった。何気なく時計を見ると時間は定時の五分前だ。彼女はこのまま帰る。それは毎日のルーチンだ。
俺は目を閉じて、シズちゃんの腹部に向けて放たれる銃弾を想像した。
きっと馬鹿なシズちゃんは、銃弾で撃たれても死なないという自信をつけただろう。きっと避けずに、そのまま弾を食らう。
ホローポイント弾は強靱な皮膚に触れた瞬間、その場で爆発する。肝臓を破壊されたら、いくらシズちゃんだってひとたまりもない筈だ、うん。

「バーン!」

俺の妄想でシズちゃんは今まで何回死んだだろう。死体で城でも築き上げられるレベルだ。妄想の中で幾度も死んだシズちゃん。現実では元気に暴力活動に勤しむシズちゃん。俺が現実でシズちゃん殺害行動を失敗する度に妄想の中でシズちゃんの死体が増えていく。
まるで、夢物語だ。―――夢物語だって?俺は自分が出した結論に腹が立ち鼻を鳴らした。
同じように指を突きつけられた波江はひどく不機嫌そうにこちらを睨んだ。


「ノミ蟲てめぇ!池袋に来るなっつてんだろうがよお!」
「シズちゃんさぁ、もしかして女の子にもそんな風に迫ってるの?自販機より薔薇の花束の方がいいと思うよ?まあ、野獣にはどんな子も逃げ出すと思うけどさ。でもまあほら!ベルみたいな世界中探せば女の子がどっかにいるかもよ!」
「うっぜぇぇぇぇ!何わけわかんねぇ事いってんだ!」

これだってほぼ毎日のルーチンワーク。
何時ものように大きな軌跡を描いて投げ飛ばされる自販機を避けて俺は路地裏にを誘い込む。
俺限定のパブロフの犬は殺意を涎のように垂れ流しながら、ひたすら俺を追いかける。
迷路のように右へ左へ。果ては上へ下へ。カラスが啄む汚らしい液体のついたゴミ袋が散乱する一角へたどり着いたところで俺はシズちゃんに振り返った。

「じゃーん!これなぁーんだ!」
「あ!?」

走り回っている間コートの中でまるで雛を孵す親鳥のように温めていた黒く光る重たいものを取り出した。
孵化の為に温めるのは表現として間違っていない。俺が温めて、生まれる。シズちゃんを殺す為の武器の誕生だ。
シズちゃんは俺の両手に握られた拳銃に視線を飛ばし、うんざりしたように髪をかき混ぜた。

「また拳銃かよ…」
「人生で二回も拳銃を向けられる人生ってなんてスリルに満ちあふれてるんだろう!ちいとも羨ましくないから死んでみた方がいいよ。
両手をあげて膝をつけ!……わぁこれ云ってみたかったんだ」
「ついにナイフは諦めたのか?でも拳銃もきかねぇって知ってんだろノミ蟲」
「ばっかだなぁ。どんな化け物でも過信したらそこで負けだよ!ほらぁ、どんな物語でも化け物は最後、人間に打ち負かされる、だろ?」

シズちゃんの油断しきった表情に向かって、俺は躊躇なくトリガーを引いた。
そんな間抜けな面で殺されるなんて本当にシズちゃんは馬鹿だなぁ、馬鹿だなぁ。
二つの薬莢が落ちる音がした。サイレンサーを付けているから、銃声は聞こえない。俺肘と肩に走った衝撃に僅かによろめいた。あんまり近くで撃ったからか、軽い音がして返り血が飛び散り、思わず目を閉じた。
顔に触れると、温い液体が手のひらにべったりと付いた感触があった。
そろそろと目を開くと、ぼたぼたと落ちる血液にシズちゃんは目を見開いて腹部を押さえていた。流れる赤黒い血は、普段は身体の奥の奥を流れている血液だ。
やった!ついにやった!
足から上がってくるぞくぞくした喜悦に俺は一瞬、射精してしまうかと思った程だ。

「解る?これは身体の中で爆発する弾なんだ。今君の肝臓は木っ端微塵!」

シズちゃんは二、三歩よろめくとひび割れたコンクリートにもたれその儘座り込む。覆い被さるようにしてシズちゃんの顔を両手で包んだ。つい数分前まで猟犬のような顔つきをしていたくせに、今はどうだ。埃と汗にまみれた汚らしい顔。

「シズちゃん、何か云い遺したい言葉とかある?なんかほら、熱烈な愛の言葉とか…まあ、君にはそんな相手いないか。じゃあ幽君!でも俺が届けてあげる可能性はゼロに等しいわけだけど!」
「…殺す、殺す、絶対殺す…!」
「シズちゃんの最期の言葉は、俺への殺意か…愛されすぎて俺もう昇天しそう」
「ぜってぇ…殺してやる…生まれ変わってでも殺す…」
「シズちゃんってロマンチストだったんだね。その日を心待ちにしておくよ!」

シズちゃんは口をぱくぱくと開いた。魚の死ぬ間際にそっくりな呼吸の仕方だった。
ああ、腹の部分にはもう肉がなく、脊髄の白さが目に眩しい。
何時もは太陽を反射して輝く鳶色の瞳は濁って、その中に映り込む俺も当然濁っている。
ひゅうひゅうとシズちゃんの喉咽から音が漏れて、俺は耳を傾けた。幽君位になら、いまわの際の言葉を届けてやってもいい。
なんて優しい事を思ってあげていたのに、シズちゃんは強い力で俺の喉笛に噛みついてきた。野生動物そのままだ。最期の一噛み。鋭い犬歯が俺の皮膚を破り、頸動脈を狙う。
あと少し、あと少しで血管まで届きそう。
「残念」
俺はもう一度拳銃を構え、シズちゃんの鳶色の瞳を撃ち抜いた。幾度か痙攣し、そのままシズちゃんの身体からは力が抜けていった。
「――本当に、残念」

残念だったね、シズちゃん。
深く深く歯が食い込んだ首筋は、軽く触れだけで指先ににべっとりと血が付く。シズちゃんも血塗れで、俺も血塗れだ。
この首の皮膚を綺麗に切り取って保存することは可能だろうか。新羅に頼めばやってくれるかな。
抱き締めたシズちゃんの身体はまだ温かかったが、一時間もせずにこの温度は消え去る。だから、俺が何時までも覚えていてあげよう。

その日やっと、俺の妄想と現実が反転した。積み上げた死体の山は崩れ、たった一つの腹の中をさらけ出し、背骨を奇妙な形にひきつれさせた死体がぽっかりと城の中に誕生した。
俺の生まれた日を君の命日にしてあげたかったんだよ、シズちゃん。そうすればこれから先ずっと祝ってあげられるだろ?





幸せ臨也きゅん
電波的な幸せという事でお茶を濁しますまる



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