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誰も知らない物語を俺は知っている
本当は、その話を知っている人は他にもいたんだ
だけど一人は死んで、もう一人は忘れてしまった。今覚えているのは、俺だけ

俺の家系は呪われていて、なんで呪われているかって聞かれたら結構昔に遡る
俺たちのご先祖様が犯してしまった過ちが原因、なんてのが一番の理由かな

俺たちのご先祖様の一人は、どうしてもどんな手を使っても手入れたい女の人がいたらしい
欲しくて欲しくて、けれど女の人はなびかなくて、ご先祖様はしびれを切らしてその女の人を殺してしまったらしい
どんな殺し方だったのかまでは詳しくわからなかったけれど、その結果、俺たちの家系は化け物に呪われた

……ああ、それだけじゃわかんないよね
その女の人は化け物に愛されていたらしい。そこに本当に愛なんてものがあったのか俺には疑問だけど、何かはあったんだってのは本当だろう
化け物は女の人の死に泣いて泣いて泣いて、俺たちのご先祖様を呪った

その呪いがどういう風に現れるか
それは俺も知らないけれど不幸になるのは当然なのかもしれない

その子孫である俺らにも罪を懺悔させるのかのように不幸になることがあって、そのたびにいつもいつも俺は思う
勝手な八つ当たりを俺らに押し付けないで欲しいって
だって俺たちは関係ないじゃないか。なんでそんな昔のことで俺たちが不幸にならなくちゃいけなの?


「だから俺は、お前が憎いよ。化け物」
「……」

黒い闇のようなものに包まれている化け物は、それでも人の生りをしていた
人じゃないくせに、俺たちと同じような姿を取らないでほしい
俺はそう思い、睨む

暗くて陰で見えない、見させないようにしてるのかのような化け物の目はわからないけれど、俺を見てるのだけはわかった

「お前のせいで、全部壊れていったんだ。まだ、まだマシだった姉貴も!!母さんも親父も!!」
「……全ては、そなたらの罪だ」
「それはお前だけの都合のいい理由だ!!……許さない……絶対許さない……」

地の底から這い出るような、高いようで低いような耳障りでしかない化け物の声は
醜いと嘲笑うわけでもなく
無様だと見下すわけでもなく

俺と同じ
憎くて憎くて、許せないという声

「お前を、殺してやる」
「そなたらを、我は赦さん」

暗い闇の中
痛いぐらいに殺意しかないこの空間の中に
大切で、大切だった存在同士が憎しみ合っていると知ったらきっと
あの化け物になった姉は悲しくなるだろうって思った

それでも俺は止まらない
化け物も止まる気はない
相手は自分たちにとって憎い相手でしかないから
何よりも、どんなことよりも



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