イギリスのある酒場にて、テーブルを囲んでいる四人はお酒を飲んでいた。
が、その中のたった一人の女性である宗人は……もう酔っていた。
「かーいー、聞けよ海ー」
「聞いてる」
酔って海に寄り掛かる宗人の口調は幼く、お面で顔は見えないが赤くなっていることだろう。
宗人はお酒に弱い。たった一口飲んだだけで理性は薄れ、気分のまま絡む。その的にされるのは主に海で、今も海は顔をしかめて酒を飲んでいる。
「あっはっはー、本当にそっちの犬は酒に弱いね〜」
「……ちびのくせに酒に盛ってんじゃねーよ」
「はは……誰がちびだこのクソ犬」
イギリス英語でのスラングの言い合いにライアは少しだけ眉を寄せるが、二人は気にせず続ける。
ここの酒場ではそんなやり取りは日常茶飯事だし、周りの奴らだってそんな人たちだ。誰も気にしないし、聞いてもいない。
だからこそこの四人は偶然という最悪の再会を酒場でしては、いつも同じように話す。
次はないだろうと思いながら、今日もまたばったりと出会った。
「大体さぁ、ここに来たならお酒を頼むのが礼儀ですよー?」
「てめぇの憂さ晴らしでこいつに酒飲ますな。こいつが酔うと面倒なんだよ」
「だぁれがめんどーだゴラァ……」
海の言葉に反応する宗人の舌は回っておらず、彼女が完全に酔っていることがうかがえる。
海を抱きしめるなんてところをいつもの彼女が見たら絶叫ものだろう。もちろん本人はこのことを知ることはないのだが。
「……お前らは静かに酒も飲めないのか」
「ハイエナにしては固いことを言いますね。酒場で飲む酒はギャンブルにスラングがお似合いなんですよ」
「スラングにはスラングだろ」
流暢な英語で返され、ライアは出そうになった溜息をエールを飲み込んで喉の奥に流し込む。
フランスのワインよりもエールの方がライアには合っていた。だからこそイギリスに来ることもあるのだが……こうも面倒な奴らに出会うならばしばらくは来ない方がいいのかもしれない。
けれど、またきっと会うのだ。
「あ゛あ゛?もう帰んのかよ」
「荒くなってるぞ、口調。……宗人がうざい。かえって寝かせる」
「うー……まだいける……」
「そうか……明日は仕事だというなよ」
「日本人は仕事終わりにしか飲まねーんだよ」
挑発するように笑いながら席を立ち、宗人を抱えていく海を目だけで見送る。
ちらりと南がさっきまで海がいたテーブルの上を見ると、ご丁寧に色つきのお金が置かれていた。
だからいけすかねーんだよ。あの犬共は。
もう二度と会いたくないね、なんて思いながら小さい体には不釣り合いな大きいジョッキを傾けた。
夜は更けて次の日がくる。
また各自それぞれの仕事にをする。
次があるのか誰もがわからない中、互いに会いたくないと思うのだ。