さて……困った
目の前に立ち、殺気を向けてくる男にどうしようかと考える
そもそも、なんでこうなった?
仕事先が香港だった
――それはいい
捕獲対象が逃げた
――まぁ、不問にする
仕留めた場所に魔王様がいた
――これだよなぁ、悪かったの
意識を失った対象者は拘束したけど殺気に反応してぶっ飛ばしちゃったや。生きてなかったら減給されるから生きててくれ
でもどうやって連れて行こう。てか私が逃げれるか?
目の前にいらっしゃる魔王様は確実に私をロックオンしてますね
殺気がバシバシきますね
……いや〜、マジどうやって逃げようか
「あー……魔王、様?」
「お前……なんのつもりだ?」
「いえ……仕事で……」
「それ、どうする気かな?」
「それ?」
魔王様が指さす方を見る。瓦礫しかない……ん?
よく目を凝らすと色つきの破片がちらほら。なんだあれ?
模様が入ってて、取っ手がある……高そうな、カップが……
それに理解して逃げ出す。対象者は仕方がないから置いて行く
魔王様も追って来てるのか殺気が背中に刺さりますねー!!ついでに破壊音もしますねぇえええ!!
でも私が悪いんじゃないと思うんだ!!魔王様のコレクションのティーカップ壊しちゃったの私じゃないよ!?
「魔王様、許してって!!壊したの私じゃないヨ!!」
「あれ何十億すると思ってんだ?今じゃ幻の一品とまで言われてるティーカップだぞ?とりあえずその命で償え」
「嫌です!!」
冷静そうな声が余計に怖いよー!!あとあのティーカップそんなに高いんですね!!
人のいるところは危ないから裏道を走って林の中に入っていく
少しは姿が隠せると『バギバギバギッ』……木が倒れてる。無理そうすっね
後ろ振り返れる余裕は出てきたけど……振り向かなきゃよかった。木が一本だけじゃなくて何本も倒れていくのかわかっちゃったよ
自然破壊を考えよう
大分距離はあけたけど見つかるのも時間の問題だし、今のうちに連絡をしとこう
対象者の回収と迎えの、っ!?
「ぁっぶな!?」
急いで止まった先には、崖が広がっていた
気づかなかったらそのまま落っこちるとこだった
周りを見渡しても崖だけ。森からは抜けてしまったみたいで、戻ろうとしたけどあの木が倒れる音と一緒に実際に見える
……うん。どっちにしろ見つかるわ
前門の崖に後門の魔王様
絶体絶命ってやつだねどうしようホント!!
焦るなって思うんだけどそう思うとどんどん焦るっていうか――あ?
騒音以上のうるさいプロペラの音と突風を出しながら、ヘリコプターが崖の下から現れる
開けっ放しのヘリの中には海が立っていた
なんかいってるけど聞こえないって!!
「逃がす、か……!!」
「逃げますー……ではさよなら!!」
風で全然聞こえないけど海が言おうとしていることは何となくわかる
だから、突風に負けず近づいて中に飛び乗った
「―――!!?」
「――――!!」
海が操縦している人と何か話してるけど英語のせいで全然わからん
体力切れになった私が倒れている内に海はドアを閉める。銃声の音が微かにする中、動いたのか思いっきり重力がかかった
うげ……潰されそう
少し飛んで潰されそうな圧力が消えた
もう大丈夫かな?立ち上がり、背伸びをして海のほうを向く
「あー……ありがとう」
「これぐらいは大丈夫だ。つーか、お前よくあいつに追われて生き延びたな」
「今回は運がよかった。なにが悲しくて魔王様と正面対決しなくちゃいけないのさー。あの人の戦闘力カンストしてて怖い」
「王魔さんは怖いな。確かに」
『魔王』と呼ばれている王魔さんは本当に相手にしたくない
だから海が助けに来てくれて感謝してる。対象者も回収してくれたみたいだし、減給にならなくてすんだ!!
後日、自分ができる限りの力を使って魔王様のティーカップを弁償した