小ネタとか | ナノ


逃げなきゃいけない
ここから早く出ないと

「――見つけた」
「あガッ」

頭を鷲掴みされて床に叩きつけられる
軽い脳震盪を起こした体では次の動きに移るには遅く、すぐさま床に組み敷かれた
起き上がろうにもオレの体型じゃ上に乗られたら無力に近い。それが悔しくて、無駄に力を入れたら体力を消耗していった

「あーあ、今日は勇士かー」
「はっ、てめぇのはイライラすんだよ!!」

頭の上で言葉を交わす隙を見て逃げようとするけれども動かない
くそがっ!!離せっ!!

暴れていたら顔を床にぶつけられた
痛い。絶対痣になった

「暴れんじゃねーよ……俺と殺し合いしてーのか?」
「っ」

思わず体が固まる
それは最近、だけども根深くオレの心に残ったことが原因。いつ終わるのかわからないまま繰り広げさせられた殺し合いは肉体的にも精神的にもつらかった
あんな思いはもうしたくない。どこかでそう思ってしまったから体は言うことを聞かない

頭上で嘲笑う声が降ってくる
それがオレの悔しさを煽る

「くすくす。そうそう、君は大人しくしてればいーの」
「…………連れて行く」
「あははっ、やっばり君は逃げきれないねぇ」

抱き上げられた視界の中で、嘲笑いと熱い目を向けられた



先輩たちに拉致られて監禁されて何日たったのかなんてわからない
いつも通り、この双子の先輩の暇つぶしだと思った。けれど、それはとんだ勘違いだとここ数日で体にも頭にも、本能にも刻まれる

星は元気だろうか?キカイは元気だろうか?
現もカトちゃんも義清もハッカーも元気だろうか?
いつも鎖で繋がれるあの部屋じゃ、時間すらも狂ってしまう

そんなところでキチガイにもならず、立っていられる理由はただ一つ
外にいるってわかってるから
オレの、ボクの大切な家族が

「ねぇ、君はいつになったら無謀な事を止めるの?」
「はは……絶対オレは諦めません……」

痛さと怠さで動かないけれど、声は出せた
諦めるなんて、したくない。諦めたらそこで試合終了ですっていうじゃん
諦めたら、後悔するかもしれないじゃん

遊也先輩はいつものように嘲笑っていた
嘲笑ってたけど、その目は酷く冷めている

諦めてくれただろうか?
そう思って先輩を睨む

「君が僕らから逃げられないゲームを繰り返して何ヶ月もたった。けど君は堕ちない。いい加減疲れたなぁ」
「ざまぁ……」
「でもまだ終わらせる気はないよ?」

思わず舌打ちをしたくなる笑顔だ。腹立つ
この先輩の理不尽には慣れたくなかったけれど今は後悔しかない
慣れていればこんなことも何も思わなかったかもしれない

「なんで君は堕ちないんだろう?何が不満なの?僕らは顔はいいし、権力財力がある。頭だって力だって申し分ない。なにが不満なのさぁ」
「……意味が、わからない」
「?」

笑って拗ねて不思議そうな顔をして。無表情なオレとは正反対なほど表情豊かなこの人は、その通りなように子供っぽい
だから、余計にわからない
なんでオレをこんな風にするのか。なんでオレに執着するのか

わからない

「……わからないなら、そのままでいいだろ」
「あ、ずるいよー。なんで勇士は勝手に抱き着くかなぁ」

後ろから抱きついてるのは勇士先輩だった
無言のこの人にしては長い言葉に、だけど驚きも何もなかった

石鹸の臭いがするけれどさっきまでの事が脳裏に浮かび、思わず逃げようとする
動かせた手を前に伸ばすと、その手は誰かに捕まえられた
冷たい手。それは遊也先輩の手だと知っている

「くすくす。逃がさないよ?」
「はな、せ……はなせっ……」
「…………話さない」
「いやだ……いやだ……!!」
「強情だなぁ。だから墜としがいがあるんだけどね〜」
「…………うるさい」
「アガッ……」

痛い。痛い
腰に回された腕に力を入れられて締め上げられた
骨がミシミシ鳴って、内臓が押し潰されそうで、苦しい

この際、もう意識を飛ばしたほうがいいのかもしれない
そう思ったのも束の間で、今度は手からの痛みで意識が覚醒してまった。掠れる視線の先には、オレの左手を口に含み噛んでる遊也先輩

「…………」
「ひゃって君だってひゃってりゅじゃん」
「……なら、俺も」
「い、たっ」

オレの右手を取った勇士先輩も同じく噛んでいく
骨ごと噛み千切られそうな恐怖と、血が滲んだ傷が唾液で沁みて生まれる痛みが頭を埋めていく
思わず足で蹴ってしまっているけれど、さっきまでのせいで弱いのか遊也先輩はただ笑った

舐めて、噛んで
味わうように舌で傷を確かめられて
数分だろうけれど長く感じるその行為は、つらいとしかおもわなかった

「ぷはぁ……おお、意外と綺麗にでーきた」
「……(ガジガジ)」
「もうできたでしょ〜?勇士も口から離しなよ」
「……はぁ」

口からの糸の先は、赤く血が滲んでる輪のような傷に繋がる
指の根本近くに付けられたそれは、全部の指じゃなきゃ結婚指輪かと思ったのかもしれない

「くすくす、知ってる?指輪をどこに嵌めるかで意味も違ってくるらしいよ?」
「……全部、俺の」
「たち≠ナしょ〜?……さぁ、逃げるなら逃げ切ってね?勿論逃がす気はないから。僕らの大切で大好きな、影」
「……逃げたら、潰す」

両耳から囁かれる最悪な言葉
両手で塞ぎたくても、赤い痕がついた指を見てしまったらそれすらもできなくて

早く終わってしまえ
この狂気が愛なんてわからないオレはそれだけを願う



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