語り部:宗人



おはよう、影ちゃん。
今日は早かったね。……顔が青いけれど、どうしたの?
……怖い話を集めなくちゃいけなくなったって……影ちゃん確か……。
ああ、うん、そうだね、怖くないよね。ごめんごめん。
……じゃあ、ちょっとうちに寄ってかない?怖いかはわかんないけど、私の知ってる話でよければ手伝うよ?
もしよければ着替えてからうちにおいで。おいしいお菓子も準備しとくね。


――来てくれてありがとう。そこらへんに座っておいて。
はい、これお茶ね。気にしないで?招いたのは私だから。
さっそくだけど、話すよ。なにかメモ……録音しておく?ならありがたい。

ええっと……これはある少女の話だよ。まだ幼い少女が成長する過程での話。
その少女は一般家庭に産まれた普通の子どもだった。親がいて、祖父母がいる家に産まれた一人っ子で、近所の同い年の子たちが友達。
少女は幼稚園に上がって、同い年の友達と遊んでたある日、とても仲がいい女の子とケンカしちゃったんだ。ケンカって言ってもよく子どもがするちょっとした言い合いね?「私じゃなくあの子が!」っていうちっぽけなことでする言い合い。
女の子は怒りながら少女に「だいっきらい」って言った。少女もそれに言い換えそうとして、大きな声で言った。「だいっきらい!」って。

するとね、言われた女の子が急に胸を押さえて「いたい」って言い出して、だんだん顔色も悪くなってきてその場に倒れた。その異変に気付いた先生が急いで近づいてきて、救急車を呼んでその女の子は病院に運ばれていった。
少女は突然の出来事になにもできず、他の先生にどうしたのか聞かれたけれど、なにもわからないから言えることなんてさっき言った通りのことだけ。
そのあと女の子はもう二度と幼稚園に来なくなった。先生たちは違う幼稚園に通ってるって言ってたけど、少女はあとでその女の子がなくなったこと知った。

それから、だと思う。少女の周りでおかしな、悲しいことが起き始めた。
近所の犬や猫。育てていた金魚。……そして、近所の人に学校の先生、仲が良い友達。少女が大切に思う存在が次々に怪我をして、事故に遭って、最悪死んでいった。
そのほとんどが少女と関わってたから少女は次第に不気味がられて、忌まれて出した。あまりにもそれがひどすぎて、心配した祖母は少女を連れて行きつけの神社に連れて行った。けれど、どうしてだが少女は鳥居をくぐることができない。体が重くて、中に入ったら嫌なことが起きる気がした。中に入れなくて困ってるとき鳥居の近くまでそこの神主さんが出てきて、少女を見て眉間に皺を寄せて言った。
「その子はこの中に入れません。入れる許可は下ろされないでしょう」って。
中に入れた祖母が「なぜですか?」って神主さんに聞いたら、神主さんは少女を見て話しだした。
「この子はずっと昔、一番最初の生で大罪を犯したのです。それは神々を殺すということ。神々は殺したこの子を憎み、けれど愛してしまった。だからこそ、きっとこれからもその子が何かを愛す度に、何かを憎むたびに、憑いてる神々はそれらに災いを招くでしょう。その災いは、時に死≠ニなる。唯一災いが起きないのはこの子を産んで育てる親だけ。……憑いてる存在(モノ)を払うことはできません。それは神々であったのもあり、堕ちた今でも力は持ったままだからです」


その数日後に少女の祖母が死んでしまった。

それから少女は感情を表に出さなくなった。両親以外と話さなくなった。誰ともかかわらなくなった。
……ん?なにか思い当たる節でもあった?……そう。気のせいだったらごめんね。話を続けるよ。
少女は髪を伸ばし始めた。誰かと目が合うだけで神々が嫉妬するようになったから。
少女はマスクをするようになった。少しでも表情が動くだけで神々が反応するから。
少女は成長して中学校に行く歳になり、親は気を使ってのことを知らないところに行かせてくれた。
彼女は怖がった。誰か傷つけるんじゃないかって。誰か殺すんじゃないかって。
怖がりながら、彼女は生きている。

……それからの話はないよ。いや、あるけど話せる相手ができて、なんとか神々封印して、はい終わりなんだよね。
それをいっちゃったらつまらないじゃん。だからそのオチはなしね?時には途中で終わらせましょう。
もうそろそろ日が暮れちゃうから早く自分の部屋に戻りなよ?途中まで送ろうか?お隣だからいい?はは、そうだね。

……ねぇ、影ちゃん。もしも、だよ?『少女は大人になっても神々に縛られ、けれど抗い生きることに執着してる』って終わりは、意地汚いかな?見苦しいかな?
『誰かの生を奪いながら』ってついたら、いよいよ滑稽かな?傷つけたくない、殺したくないって言っときながらって。







宗人さんの表情はお面でわからないけど、声は嘲笑ってるようで、泣きそうだった。
オレが何か言う前にいつもの調子で結局部屋まで送ってもらったから何も言えなかった。けどオレ、思うんだ。
きっと少女は『神々を殺したことを』後悔なんてしてない。どんなことをして生きることになっても。
だって、少しでも後悔するならその子は

死ぬと思うから。
……そう思うのは、極端すぎるか?





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