語り部:勇士




『メール。送る。
話。書く。話すの、面倒。

よくよく考えたら細切れが一番めんどくせぇ。普通に書いてやる。
俺と遊也は小さいころ、親に連れられて田舎に行ったことがある。そこに行った理由は親の、今は俺たちの仕事関係でだ。田舎のそこは子供は少ししかいねぇ。けど子供ってのは妙に勘がいい。しかも俺たちは大きな屋敷に連れられてきた子だ。避けるのが妥当だろ。
遊也はそれが気に食わなかったみたいでつまらなさそうだったけどな。俺はどうでもよかったから寝てた。

家に帰るまであと数日って時に、遊也が遊び相手を見つけたと言いやがった。んでもって興味がねぇって言ってるのに俺も連れて、あいつ、近所の神社に行ったんだ。
んなとこにガキなんているはずねぇだろと思ったら本当にいたんだわ。はかま?甚平ってやつか?和服だったわな。遊也も和服好きだからめちゃくちゃ喜んでた。
そいつはいろんな遊びを知ってたと思う。それはたぶん、昔の遊びってやつだ。あの遊也をあきさせないぐらい遊びを知っていた。遊也は喜んで参加する。俺は引きずられる。そんなわけで数日間遊んでた。

もうすぐ帰るときになった。遊也は大分満足したみたいで、そのガキに帰ることと礼を言っていた。ついでに言うと、俺は今まで一言もしゃべっていない。
とりあえず、するとそのガキは悲しそうな顔をしたわけだ。子供のくせに、子供だからか危機感ねぇなとか思ったんだよ。俺たちはまともじゃねーからな。ガキはその顔のまんま、聞いてきた。「君の名前は?」って。そういやあ俺たち名前言ってなかったなってな。
遊也は答えたけど俺は答えなかった。めんどくさいし。ガキも「君はいいよ」とか言いやがったからな。答えなかった。
その日の夜、遊也が熱を出した。

死なないしぶとい奴だから気にしていなかったんだが、親がうるさくてな。俺が話すのめんどくせぇって知ってるだろうにずっと聞いてくる。正直鬱陶しい。だから俺は、夜中だけど神社に行った。
当然神社は真っ暗でな、明かり持って来ればよかったって後悔した。けどもどんのもめんどくさい。だからそのまま境内に入った。
すると歌が聞こえてきた。わらべ歌、ってやつか?その歌の方に行けばガキがいたわけよ。歌っていたのはあれだ。人身売買の歌。

あの子が欲しいって言って遊也の名前を呼びやがる。だから俺は声をかけた。
「お前なんかがあいつを連れてけるはずがねーんだよ」って。久しぶりに出したせいで喉の水分が一気になくなったのを覚えてる。
ここからはそん時の大体の会話だ。
「来てくれるよ。だって遊也は僕と遊ぶのが楽しいっていってくれたもん」
「あいつは遊びが好きなだけだ。お前はあいつのことをなんも知らねぇ」
「知らなくないもん!!遊也だって知ってるもん!!」
「……それじゃあ答えてみろよ。あいつの好きな食べ物は?飲み物は?遊びは?そして、あいつの弟である俺の名前は?」
「それは……!!?」

あんときのガキの顔はよかったな。すっげぇ驚いたって顔。イライラしてきてたけど大分収まった。
知らねーよ、そのガキは。だってあいつは自分のことなんてしゃべんなかった。ペラペラそこから出てくんのはどうでもいい雑学と戯言ばかり。ガキは口を閉じたり開けたりしてた。

「てめーはなんも知らねーんだよ。俺たちが、どんな家系の奴なのかも」

やっぱイライラしてたから俺はそのガキを殴った。ムカついた。なんか言ってた気がするが覚えてはいねぇな。
何度か殴って、ガキが泣いて、でも俺は殴り続けた。笑い声を上げたのは覚えてる。潰したいと思ったし、そのガキが気にくわなかったってのもある。
しばらくして、気が付いたらガキは消えていた。すげぇなって思ったのと潰し切れなかったって気持ちで複雑だったな。
気配も辿れねーしで家に帰った。そしてら遊也の熱が下がったっていう話だ。
遊也が「馬鹿力でなんとかなるもんなんだね〜」とか笑ってやがったが知るか。俺が手を出さなくても俺達は悪運が強いんだから何とかなっただろうによ』




それだけで終わってるメールは正直、すぐ消したくなった
いやだって、こんな素手で相手を……なんて話怖すぎでしょ
やっぱりあの狂乱双子は怖い。見えるだけじゃなくて、自分たちでソレをどうにだってできるんだから
……でも、知らない人に名前を教えるのは良し悪しだっていう教訓にはなってるんだからマシだよね





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