室内にパソコンのキーボードを打つ音が響く
明日の朝までに出来上がれば上出来か。いや、ボスが早めに欲しがっている素振りを見せていたから日が上がるまでに終わらせなくちゃな

「失礼しまーす」
「……」

また来訪
こうも深夜に来訪が多いと言うのもこの組織にいる以上珍しくないが、どうしてこうもいなくなったと思った矢先に人が来るのか

面倒でパソコンの画面から顔を上げず打ち込みに集中する
関わるなという空気を出しているのに、入って来た来訪者は足音を立てて近づいてきた
空気が読めないわけじゃないだろ。なんで来るんだ

「ナツメさーん。その空気痛いんで閉まってくださいませんか〜?」
「仕事の邪魔だ。帰れ」
「ひどいです!!久しぶりに会った息子の友達ですよ?」
「……はぁ、あれとはもう、絶縁してた」

眉間に皺を寄せ、顔を上げる
すぐ近くに笑顔のままの情報屋である允情がいた

相変わらずの営業スマイルに、優男のような風貌は初めて会ったころから変わらない
けれど、その裏に抱えている感情も考えも危険だと言うのは彼が彼自身の家族に対する扱いと向ける感情で知っている
だからこそ、極力関わりたくないとも思う

「ひゃー、ナツメさんまた髪伸びましたね。切りましょうか?」
「いらない」
「まぁまぁそういわずに」
「フラれた宛てつけに変なデザインにしそうで嫌だ」
「…………」

笑顔で押し黙った允情に図星かと呆れる
こいつは既婚者だ。子供もいる
それを知っていても寄ってくる女はいるし、允情もさも当然のようにそんな女を抱く

浮気といえば浮気だろうし、最低と言えば最低だ
だが他と違うのは、そうして浮気して自分の妻にワザとそれをわからせて憎しみに染めるのがこいつの愛し方と言うことだ
そして憎しみに染まったちょうどいい時期に甘くする

なんともまぁ、クズだと私は思う
息子の友人というのは事実だろうが、だからと言って私が贔屓に見たりはしない
こいつの才能の技術は確かに素晴らしいが、人格者としては終わっている方だからな

「……あと少しで、もうちょっとだったんす……」
「知るか。仕事の邪魔だ」
「ナツメさん!!またいい女紹介してくれません!?」
「知らな「どこだあのクソ女男ぉおおおお!!!!!!」……いたぞ」
「……いや、アレは無理です」

随分遠いところから聞こえた怒号に今度こそ仕事の手を止めた
なるべく急いで仕事の書類が飛ばないよう片付けていると、足音が近づいてくる
足音は勢いよく走ってきて私の部屋の前で止まり、そして勢いよくドアが蹴破られた

……取れたというより破壊されたか……
……こいつ、後で修理費出す気ないのに毎回毎回ドアを壊しやがって……
怒りよりもやはり呆れて、ドアを蹴破ったそいつを見た

「また麻を!私の可愛い妹を!泣かせくれたなぁああああああああ!!!」
「……過保護すぎだ。姉の方」

怒りを露わにした表情で私を睨んでくるのは組織の仲間の一人であり、一番の問題児であった
過保護なほどのシスコンで、妹のほうが少しでも泣くとこうやって怒って出てくる
それならこちらも幾分悪いと思うが、こいつの妹である麻は大の泣き虫。喜んでも怒っても驚いても何をしても泣いてしまう

……言ってしまえばどっちも面倒ってことだ
泣き虫の妹に過保護で怒りんぼの姉。バランスが取れているようで取れていない

「今日という今日は絶対殺す!!」
「ちょ、俺まだここに居るよ!?アズマちゃん!」
「私のぉおおおおお、名前を呼ぶなぁあああ!!」

ただ姉の方の神経を逆なでする允情に使えないと眉間に皺を寄せる
数多の女を落とそうとも、やはり誰かしらはなびかない。人間なんて多種多様だからな
だけども、このまま部屋で暴れられた金がかかる

懐からタバコを出し、火をつける
煙が出たのを確認して口にくわえ、姉の方に近づいた

「妹の方が泣いたのは頭上からクモが降ってきたから、姉の方」
「このッ……ぐふぁっ!!」

タバコを肺いっぱい吸って姉の方の顔にかけてやる
私の吸うタバコはそれなりに強いものらしく、煙だけでもキツイらしい。正直、タバコを吸うのが癖になってるだけな私にはどうでもいいことだが、こういう時に役立つ

吸った煙を姉の方の顔に吐き出せば、咽る姉の方
何度か咳をし、その目尻に涙を溜めた時、異変が起きた

「……うう、うえ、うぇええええん……」
「泣くな妹の方」

さっきまでの威勢はどこかへ
大粒の涙を目から次々流しだす姉の方……いや、妹の方がいた
ここで説明するならば、ややこしいが簡単に、単純いえば妹の方である麻は二重人格のようなものだ
けれど、それは普通のとは違う

姉と妹。この姉妹はこの組織に所属する前、あるところで酷い目にあった(らしい)
それにより、姉の方は体と魂が離れ離れになってしまい、妹を守るためという執念だけで妹の体に姉の魂が憑りついている
姉の方は死んではいないらしい。ただ体が行方不明で生死不明のため、こうやって妹の体を使い表に出てくる奇妙な二重人格者の姉妹になった

「ごめ、ごめんなさいぃぃ……お姉ちゃんが……」
「いいから泣き止め。折角お前を出したのにまた姉の方が出て来るだろ」
「泣き顔の麻ちゃんもかわごふっ!!」

余計な事を言いそうな允情の腹に一発入れ、もう一回タバコをくわえる
気を付けないと長くなった髪に付くからな……燃えても死なないのはもう実証済みだが

面倒くさくなり、妹の方を允情に言って送らせる
これでまた室内は静かになったと、イスに座り直した





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