「わーおです。異様な気配を感じたので来てみれば、下等と異端がいがみ合ってるです」
「ディオ、口が過ぎる」

また新たに現れた存在に眉を寄せる
気配と口調から知ってる存在というのは容易にわかったが、その存在が面倒には変わらない
忌々しい存在が増えた。そうとしか思えぬ

「……あんたらか」
「はぁ?です。少しは口の聞き方に気を付けたらどうです?妖刀風情が。……ああ、なりそこないでしたですね」
「ディオ、何度も言っているだろ。彼は私たちと同じ闇のモノだ。……見下すなら、そちらの異端だよ」

ディオと呼ばれた中性的な顔立ちの男は語尾にですです付けて煩い
その存在の言葉を咎めながらも、我の方に矛先を向けさせるディオと似た姿の存在は……名は覚えておらぬが、性別は女にしているというのは覚えている

見下す視線。嘲笑う視線
ああ、憎たらしい。我の存在が確立したときからその視線はずっと向けられる

「異端、か。そういうそなたもある意味異端であろうに」
「……随分減らず口を叩く」
「事実であろう?」
「ちょっとちょっと、夜月を悪く言うのやめて欲しいですね」

女を庇うように一歩前に出てくるディオという男
女は、夜月というそうだ。記憶を巡ってみるが、やはり思えだせない
……どうでもいい事だったんだろう

「別に気にしていないよ、ディオ。……妖刀闇桜、あなたはそろそろこの空間から出たほうがいい。私は何とも思わないが、あなたをよく思わない連中がいるのも知っているはずだ」
「……ああ、そうだろうな」

最後の最後で、最初に噛みついてきた存在の名を知れた
妖刀など付いているが、実際は妖刀として半端者で、だからと言ってただの刀でもない、この存在の名

そうだ。名だ
我にも名があったはずなのだ
遠い昔、我が唯一愛した存在が我にだけ付けた名が

それがどおしても知りたく、また我は記憶を漁る
だがやはり出て来ない。あれほど、大切だったのに

『     』

愛しい存在しか持たぬ声が我の名を呼んでいたのだ
この姿の黒髪と同じ、黒い目を向け、微笑み……

「……思い出せぬ」

そなたの目はどんな目だ?
そなたの声はどんな声だ?
そなたの微笑は、どんな微笑だった?

嬉しそうだったか?悲しそうだったか?それとも怒りを露わにしていたか?
思い出せぬ。こんなにも愛しく、この姿を保ち続けるほどに好いていたのに

「おい!」

誰かが我の背に声を投げてきたが我は気にも留めず歩んでいく
闇の奥深く歩んでいく

そして我が憑いている者の精神でまた寝よう
前のように長い眠りではないが、一時の夢をみよう
愛しい存在といた、あの時の夢を






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