どこまでも果てしない闇が覆う世界
何年ぶりで、ここに来たかはもう覚えていない
恨みを抱え、何百年何千年寝むり続けたのと同じくらい記憶にはない
「……暇だな」
久しぶりに発した声は、我自身でも耳障りだと思うほど低い
地の底から這い上がるような、人が恐怖を持つ声
我の声
「よう」
我以外の気配と声
その気配に、存在に目を向ければ記憶の中にまだ残っている姿の存在がいた
黒髪を腰の辺りまで伸ばし、キモノという服を身に付けている存在は、そんな容姿でも性は男であると言ったか
だがやはり名は思え出せん。一体どんな名前だったか……忘れてしまったならこの事はそのままでいいか
「てめぇがこの空間に来るなんて珍しいな」
「……」
「なんだなんだ?憑いてる奴に何かあったのか?」
「……」
「……何か言ったらどうだ」
「煩いぞ、妖刀の成り損ないが」
余りにもしつこく、つい声を上げてしまった
そ存在は我の言葉を聞き、顔を怒りに染める。すぐ相手の言葉に冷静というものを無くすとは、単純な奴だ
どうでもいいと、その存在から視線を外し何もない虚空を見つめる
それが余計に煽ったのか、その存在は声音すらも怒りに染める
「お高く止まってんじゃねーぞ、邪にも聖にもなれねーやつが!どんな存在からもやっかみ扱いされて!可哀想にな、お前が姿を借りたその姿の持ち主もてめぇを憎んでるだろーよ」
「……もう一度、言ってみろ」
その存在が言うことは、忌々しいが事実であった
事実に返す言葉何もない。特に思うこともない
だからこそ、ただ黙っていた
だが、よりにもよってこの存在は我の今の姿にすらも口を出してきた。我の、愛しい存在の姿を
それだけは許さぬ。この姿は変わらぬあやつの姿なのだから
声を忘れても
目付きを忘れても
笑顔を忘れても
この姿だけは忘れないため、こうして我が保っている
「我がどこにも属せね存在というのは今に始まったことではない。だがそんなのはどうでもよい。我は、神々もも闇に潜むモノも人間も、全てが憎く気に食わぬのだからな」
「このッ……」
「今ここで、そなたを喰らってやってもいいのだぞ」
その存在は己の本体ともいえる小刀を構え、我を睨んでくる
だがそれ以上は何もできないということを我は知っている。我にその刃が届くはずがない
闇と同化するほど、もしくは闇よりも濃い瘴気が我を囲む
我の一部であるそれは、触れればどうなるかその存在も知っているはずだ
だからこそ触れられず、近寄れず。実に滑稽
神々も、闇に潜むモノも、人間も
我を忌み嫌う
なのに我を殺すことはできず
良い気味だ
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