ざわりざわり
誰かの呟き。息。動き
全てが聞こえたようだ
……違う。ようだじゃない
自分は元々耳が良かったんだ
嫌になるほど、耳が良かったんだ
忘れてたのは嫌いな音が、耳障りな音が聞こえないから
「君たちは一度しかない生を自ら手放しました。いや、手放しって言うより手放さなくちゃいけない状況だったのかな?とりあえず君たちは死んで魂だけの存在」
騒音までとはいかないけど、声が少なからずするのに黒尽くしの男は気にせず話だした
自分は特に何も考えず、ただ聞いた
「世の中、どこかの世界ではそんなの一日一回あるほど珍しくない。けれどまともな人生すら歩めなかった人が哀れで哀れでね、そんな人の中からランダムで選んだのが君たちだよ」
明るく、優しい目付きの黒尽くし男の口元には嘲笑いのように口角が上がっている
その目はどこまでここにいる全員を見下しているようだ
「というわけで選んばれた君たちは運が良くて、そんでもってここで疑似スクールライフが歩めるのです!よかったね!!」
「ヒューヒュー」と囃し立てるときに使う言葉を言う男
ざわりざわりとしていた波紋は荒くなっていって、どこが爆発するのがわかった
「ふざけんな!」
「なんでまた生きるみたいなことしなくちゃいけないんだよ!」
「死にたいの!お願い、もう生きてたくない!」
あちらこちらから上がる抗議の声
うるさい。そう思って耳を塞いだ
―――ボフンッ!!
風船が、それ以上の大きなものが破裂したような音
それからどこからか悲鳴がした気がした
そっと、少しだけ耳から手を離す
「……ギャーギャー騒いでんじゃねーよ」
頭の上、つまり教壇みたいなとこに立っている黒尽くしの男から声が聞こえた
その声には苛立ちが含まれていた
「一度しかない自我を持った人生手放しやがって、死にたい?ふざけなよ。てめーらがうまれてきたせいで輪廻転生の輪に戻るしかできなかった存在は数えれないほどいるんだぞ?命大切にしろとか述べる気ねーけどよ、ギャーギャー騒いでるとさっきの奴みたいに魂ごと消すぞコラ」
顔を上げて見れば、やっぱり黒尽くしの男は怒っていた
話の中身でさっきの音は一人の魂が存在ごと消えたってことがわかった
静かになる周り。一瞬の無音にちょっとだけ安心した
それと同時に男は笑う。またあの嘲笑い
どこか、遠い記憶
その笑みをずっと見てた気がした
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