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交渉相手とはいえ、今はまだ敵といっても過言ではない相手の本拠地にいるのは落ち着かない
しかも、ボスの命令で警護を任されたことで交渉の場にいられないというのが一番、な

今回の交渉は別に失敗しても構わないのでボスと右腕を主張するバカ一人でも間に合うのだが、何もすることがないとなると手持無沙汰なとこがある
ついてこいと命令されたから従ったが、やはりこの時間が無駄に感じる

「と思っていたんだがな……」
「どうしたのナツナツ〜?気難しそーな顔してるね!!」
「現在進行形で困っている」

意味が分かっていないまま笑う牙狼の腕の中には幼い少女
ここにいることから交渉相手の仲間だと思うのだが……なんで捕まえているんだ
さっきまでの手持無沙汰は違う意味で消えた

牙狼と千は陰からボスたちの護衛を任せていたはずなのになんでこいつだけはここにいるんだ?
というよりこいつの手綱を握ってるはずの千はどごだ?
そして理解ができていない少女はどこから連れてきたんだ?

聞きたいこと、言いたいことが多くありすぎる
痛み出す頭を押さえ、ため息を付いた

「この子ねぇ、血の臭い纏いながら歩いてたの!!でね!!目がきんきらきんのお月さま!!ボスっちと同じ!!」
「うん?ああ、そうだな」
「髪も黒色!!背も低い!!ボスっちにょた版だから持ち帰るの!!」
「返してきなさい」

少女をよく見れば確かに目が金色だった
私たちのボスも黒髪に金目という不思議な容姿だからそう珍しくもない
が、ボスのにょた版とはなんだ。子犬みたいに持ち帰るとかいうな

「あ、の……え、だれ……?」
「うちの馬鹿がすまない。牙狼、いい加減下ろせ」
「いやだー!!この子持ち帰るのー!!」

牙狼を説得するのは早々にあきらめた
駄々っ子のように騒ぎながら少女を抱きしめている。人形じゃないんだからやめておけ

私がもう何も言わないということを許可が出たと思ったのか、嬉しそうに少女を抱きしめてくるくる回り出した
少女はそれでもまだ理解が追い付かないらしく、静かにされるがまま
こんなところ、千が見たら大変だな

最悪の事態を考え、少女に逃げた方がいいと言おうとして、止まる
少女の目が金色ではなく黒色になっていた
……どういう原理だ?見え方の問題かと観察するが、それはないらしい
黒色に……さっきまでは確かにボスと同じ目の色だったはず。いったいどういう体質なんだ……

考えても結論はでない
勝手に決めつけるのもいいことではないし、これは保留にしておこう

「なぁなぁナツナツナッツ!!」
「ナツメだ」
「あのね、あのね。おれっち目撃したの!!あのだらしなーい情報屋がおれっちたちの仲間って嘘ついて女の人のことナンパしてるの!!」
「よし、牙狼。どこだか言え」

あっち〜と牙狼が指さした方向に走り出す。あのクソ男が面倒事を起こすのは68%。この商談を破断しかけない
クソが。何故今日に限って……よくよく考えたら商談自体が久しぶりなのか。いつもそう見せかけて潰すのが目的だからな

少し行けば、確かに見覚えのある茶髪の男がいた
しかもただ今ナンパ中らしい。女はあまり気乗りしていない。ならばと、せめてもの救いを施す

「帰れ。女好き」
「ぐほっ!!?」

容赦なく蹴らせてもらった
横っ腹に綺麗に入ったためか、男―――情報屋のジョウは倒れた。体は丈夫なほうなんだら少し大袈裟だろ

腹の横を抑え、悶絶してるジョウはそれでもすぐ立ち上がって私を見てきた
痛みからか涙目をしているが、もうすぐ四十路になるおっさんがしても何とも思うはずがない

「いってースよナツメさん!!俺はただ、そこの可愛子ちゃんをお茶に誘ってただけじゃないですか!?」
「偽装して相手の懐に入るのはお前の十八番だから何も言わないが、私たちにまで迷惑をかけるな」
「ひっで。相変わらず利益しか考えてないようで……優ちゃん、こんな人は怖いから関わらない方がいいよ?だから俺とお茶でも「怖いのはお前だ、クズ」うげっ」

足に力をいれ、今度は捻りも加えてやる
悲痛な声を上げだしたジョウに手を差し伸ばそうとする女を止め、容赦なくねじり潰してやる

やがて力尽きたのか声も小さくなった
うるさかったな

「うちの知り合いが迷惑をかけた」
「あ、大丈夫です。私用で来ただけですし」
「……お前はここの奴じゃないのか?」
「いえ、私は違うところに所属してまして……」

危なかった
そうか。同盟相手というのもいるな
今回はこことの商談だけだと思っていたが、同盟相手が気軽に出入りしているというのは見誤っていた
こいつのせいで余計な火種が生まれなくてよかったものだ

ピクリとも動かないジョウに念のため重い一撃をくれてやる
上げた足を勢いよく踏み込む
足の下にある背中から何が折れる音が聞こえたが、大丈夫だろう
これで邪魔者は当分動けないはず

「自己紹介が遅れた。私はナツメという。本日はボスの付き添い兼警護としてきた」
「えっと、初めまして。私は優っていいます。同盟マフィアの一人です」
「何か用事があったんだろ?うちのが済まない」
「いえいえ!お話し中でしたなら私も用がある人に会えませんし」
「いや、時間的にもうすぐ終わるはずだ。行く場所も同じだろう。送ろう」

ここでこのままにしていられるはずがない
同盟しているということは、それなりに親しくあるはず。面倒な噂を流されては困る
それにこの優と名乗った女は厄介なことにジョウに絡まれた。今は動かないからいいが、また絡まれるとわかっているから一人にできない

何度も遠慮する優を半ば無理矢理言い負かし、強制ともとらえられる強引さで連れていく
こんなとき愛想笑い一つでもできたらいいんだがな……
少しだけ戸惑っている優を横目に、少しだけ口角を上げてみたが無理だった



  


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