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ものすっごい大きな声が耳を貫通した気がする
耳を澄まさなきゃよかった。地味に耳が痛い。キーンってする

笑っていた遊也先輩も、目の前で動揺していた兄さんも、静かになって呆けてた
後ろのお姉さんはそれに気づいていないのか、叫ぶように言い始める

「リベン君はカッコよくて綺麗で優しいから女性にモテるんだよ!!私なんかとじゃ比べものにならないほどの美人さんに!!毎日毎日その人たちの相手をしているリベン君が私なんかとつき合うなんて絶対にないし、私なんかがリベン君の彼女なんてリベン君に悪いよ!!」
「絶対ない……」
「リベン君!!大丈夫だからいつも通りに撃ってね!私なんかにも優しくしなくていいから!!」
「なんか……」
「それに!!私にもリベン君にも好きな人はいるんです!!勝手に決めつけないで!!」
「お姉さん、そこまでにしてあげてください。兄さんが可哀想な気がする……」

ずっと兄さんの事見てたけどお姉さんが何か言うたびに目に見えて沈んでいってるからやめてあげて
あと遊也先輩が笑いこらえてるからそろそろそこまでにしてくれ。あの人の笑い方、人の事嘲笑うみたいな感じで腹立つから

そう思った瞬間、特徴的な笑いが後ろから聞こえてきた
何かそれはもう、盛大に人を馬鹿にしてる笑い方

「ヒーハハハハハハッ!!ちょ、ま、アハハハハハハッ!!すっごい笑えるんだけど!!え!?なに!?まさかのまさかでまだその段階の人たち!?それとも一方通行!?どっちにしろこんなモロでのやり取り初めて見たよ!!ヒーッ、アハッ、アハハハハハハ!!腹筋割れる!!!」
「うるせぇえええええええ!!」

思わず兄さんを警戒してたのを忘れて鉄パイプを遊也先輩に振るってしまった
笑っている遊也先輩は、さすがというべきかそんな状況でもオレの鉄パイプを避けて笑い続けてる。あー、この癪に障る笑い声やめて欲しいんだけど!!

腹を押さえながら逃げた遊也先輩は、当然お姉さんは解放されて兄さんの方による
兄さんも何故かダメージを喰らってたようだけど、お姉さんを隠すように後ろにやり、オレたちを見てきた

「ひー、ひー……あー、死ぬかと思った。笑い死ぬとこだった」
「死んでろ」
「…………どこの差し金だ」

暗くなってきた視界の中、それでも光を反射する黒い物がオレら向けられる。それは拳銃で、この距離じゃ簡単に当てられそうだ
勿論簡単に撃たれたりなんてしないけれど

オレは兄さんたちに向きなおり、無言で見つめる
遊也先輩もまだ少し笑っているけれど笑って出た目尻の涙を指で拭い向く

「なんか一人だけでこの町にいるらしいから襲撃しにきたんだけど……まさかとんだ伏兵がいたもんだよ」
「ここで殺る気か」
「まっさか〜。ここ神社だよ?神聖なる場所なんだよ?僕らみたいな汚れてる奴らが暴れたら怒る神様とかいるでしょ?ねぇ?」

誰に、というかどこに同意を求めているのか先輩は空、本殿?の屋根の上を見た
そこに誰かいるのかオレにはわからないけれど、なんだか息苦しさが増して、ここから早く出たくなる
神聖な場所だから幽霊とかなんていないと思うけど……いないよね?

笑って遊也先輩が怪しいのか、兄さんはまだ睨んでくる
それは仕方がない。先輩が怪しいのは最早当然なんだから。けどオレまで睨んでくるのは心外だ
だってオレはもう鉄パイプを元のところに入れたし、武器は持っていない
素手でもいけるけど、勘弁してほしい

「というわけで、お暇しまーす。最近こんなのばっかだな〜」
「逃がすか――」

風が吹く
それは人為的なもので、近くにいたはずの遊也先輩がいつの間にいなくなっていて、気がついたら兄さんの方にいた
遊也先輩の手には珍しく抜刀した遊也先輩の刀があり、拳銃を横から貫いてる

「……戦力外がいる状態で僕に楽しい事売ってこないでね?そういうの、萎えちゃうから」
「このッ!!」

兄さんがもう一個持っていた拳銃を出す頃には、遊也先輩は鳥居の方に向かっていた。潜って、出ていく
結局なんだ。オレは先輩に利用されたのかよ
それについて、お姉さんには申し訳ない気分になった

「ごめんなさい。お姉さん」
「え、あ」
「近づくな」
「……言っておきますけど、オレ一般人だから」

それでも兄さんに拳銃を構えられたけれど、もうどうでもいい
早く帰って明日の準備をしなくちゃいけない。平日の日に連れてきやがったあのクソ先輩……!!

そう思ったら余計に殺意と怒りが湧いてきた
きっとこれもクソ先輩の思惑に入ってるんだと思うともっと腹立つ
それなら最後にノってやりますよ。ありがたく思え先輩

学ランを掴み、オレもさっさと遊也先輩を追う
鳥居を潜る前に、振り返る。まだ警戒している兄さんと、オレを見てくるお姉さん。それと一人、さっきまでいなかったはずの白い人が見えた
けどその人をちゃんと確認する前に、強い力に引っ張られて鳥居の外に出される

いった……
肩からいったけど痛いのには変わりなく、押さえて立ち上がると、先輩がオレを見てた
……この人のせいかよ!!

「オレを騙すだけじゃなくて引っ張って転ばすとかガキかあんたは!!」
「うーん?確かに僕は君を騙したけど転ばしてないよ?」
「嘘つけ!!絶対今日こそぶっ飛ばす!!」
「なになに〜?殺し合い?大歓迎!!……って言いたいところだけど、今は大人しく帰りましょーね」
「は、おい!!」

一瞬だけ雰囲気が変わったと思った隙を突かれ、また担がれる
だから嫌なんだってこれ!!揺れるし生理的に受け付けないみたいだし!!
背中に爪を立てるようにしたり、なるべく力を加減して叩くけれど離されない。ヤバい気持ち悪くて吐きそう

片手で口を押えるオレを知ってか知らずか、遊也先輩は楽しげに言う

「くすくす、楽しいそうなのにその中に入れないってのはつまらないよね〜」
「……」
「きっとあそこは楽しいよ。面白いぐらいに狂える。狂乱なんて苗字の僕にぴったりの遊び場だ!!……けど、入れそうにないし、この僕でも諦めますかねぇ」
「……うぐっ」

ここぞばかりに胴体の辺りを締め付けられる
ちょうど胃が肩に当たって中身出そうなのに何やってんだこの人!?思わず睨みたかったけれどできず、結果的に両手で口を押える

「さーてと、吐いて僕の服汚したら弁償してね?バケモノ?」

嘲笑ってる遊也先輩の声に
やっぱり絶対殺ろうと決意した




  


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