[ 5/6 ]
誰かに抱えられているのか、静かな揺れを感じる
けれど温かくない、どちらかと言えば冷たさは人の体温にしては寒い
誰かが助けてくれてる?
目を開けようにも瞼が怠くて開けられない
「……そなたか。この奇妙な空間の主は」
「僕のだけじゃないけどそうだよ。僕がここの主」
耳だけは正常に動いてるみたいだ
聞こえてきた声は、一人は少年のような声。だけど、もう一人、多分オレを抱えてくれている人の声はよくわからない
聞き覚えがあるはずなのに、どうしてもわからない。女なのか男なのかもわからない、重なってるような声だ
「僕が招待したのは彼女だけだったんだけどなぁ……」
「……」
この屋敷の主という人はどこか飄々としていて、遊也先輩を思い出しそうだ
いや、あんな下衆と一緒にしちゃいけない。あんなクソ先輩みたいなのなんて早々いないんだし
オレを抱えている人は何も話さないで歩き出す
振動は感じれるのに、足音は聞こえない。そのことに少しばかり背筋が寒くなる
「無視するの?ここから出すとでも?」
「……」
「そういえば僕は君を招待してないはずなんだけれど、どこから入ってきたわけ?困るんだよ。僕の脚本を壊されるのは」
「……騒がしいぞ、小童」
何が起きたんだろう
目が開けられないからわからないけれど、強めの風が吹いた気がする
生暖かい、気分が下がる風
それはなにかを狙って吹いたように思えた
「……はは、とんだ化け物だね」
「……何とでも言え。たかが生前に執着し、留まるだけの人間風情が。そなたがどんな行動をしようとも、我にとっては関係ない事。だが、言おう。
―――――我の贄に手を出すのであれば、容赦はせぬ」
にえ、煮え、にえっなんだ?
でもなんだか、そんなこともどこか納得してしまっている
今オレを抱えている人がだれだかわからないのに、この人なら大丈夫だと、安心とは違う、信頼しているんだ
「はは……人間ごときにやられる化け物ってのも良い見ものだと僕は思うけどね」
……訂正。前言撤回
この人、わからないけれど、先輩と同類だぁああああああああ!!
叫びたくなる衝動は開けられない口の中に渦巻く
扉の音がした瞬間、浮遊感がした。しかも、何故か下に
……え?
「おき……あさ……朝霧……朝霧、影」
「……頭が……」
重い頭のせいで開けた視界はモノクロのまま
うわ……直ってな……い……
早く落ち着こうと思ったけどモノクロの視界のままでよかった。何故かオレの目の前には、勇士先輩がいたから
勇士先輩の特徴的な赤髪を見ていたらまた気絶してしまう。もれなく嘔吐、眩暈付きで
それはダメだ。獣が目の前にいるのに寝れるかよ
「なんで先輩が……」
「……」
無言の先輩はオレを見るだけで何も言わない。わかりますけどね。なんでお前こそいるんだって目が言ってますから
オレだって道で倒れたはずなのにどっかの家内にいるのかわかんねぇっての
さっきまでのは性質の悪い夢だとして、こんどはどこだよここ
辺りを見回すと、そこにはオレが知らない男の人がいた
ちょうど、夢の中のパーティー会場に長身の男と似てる人
「……誰ですか」
「アルベルトだ。……お前はそこの奴と知り合いか?どこから侵入してきた」
「侵入してない。気付いたらここにいた。……勇士先輩とは確かに知り合いだ」
モノクロでしかわからないけれど、多分表の人間じゃないのは雰囲気でわかる
アルベルトさんは明らかにオレを警戒している。不本意だけど、勝手にいたのはオレなんだからな
どうしたら信じてもらえるか……そう考えていると勇士先輩が前に出た
なんだ……?
「……朝霧、影は…………違う…………」
勇士先輩にしては珍しい行動だった
あの勇士先輩が、弁明してる。ヤバい………明日は包丁が降ってくるかもしれない!!
アルベルトさんも珍しいのか凝視してる
勇士先輩はとくに気にした風もなく、俺に向きなおった
その勇士先輩に酷く残念な気分になったオレは悪くない。あの勇士先輩が笑ってたから
「どんな夢みたのしらねーが、貸しだから後で殺し合いしろよ。今のお前、すっげぇ殺したくなるほどの殺気と恐怖があるからな」
ソレハイッタイナンデスカ?
オレから目を離した勇士先輩はすぐに表情が消えたけど、この後を考えたオレは胃が痛くなった
もうホント、ヤダ
アルベルトさんはなんだかんだいい人で、甘いお菓子とかをくれた。すごくおいしかった
そしてそのアルベルトさんに玄関まで案内されるときに、夢の中で見た人たちと似た人が描かれている絵を見たときには少しばかり寒気がしたのは別の話だ。……あれは夢ですよね?幽霊とかじゃないですよね?違いますよね?