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『私の何がわるかったんだ』

『もう、あの人はいないんっす』

『女であることをやめた。ただそれだけさ』

誰だろう
誰がいるのだろう

全員泣いている
残念ながらオレは、ボクは他人の気持ちを理解しようとは思わない
だって他人だから。他人のことを理解してもボクに嬉しいことが返ってくるわけないんだ

『兄さん。僕の兄さん』

笑った顔で涙を流している青年を見ても
ボクは理解できなくてただ眺める



「――……」

寝起きの頭は働かない
ここは一体、どこだ?

オレの目がおかしいのか、淡い色が混じった色が微かに流れている。正方形の何もない部屋
その中心に拘束も何もされずオレはいた

えーと、睡魔に負けて眠って、気がついたらここにいて……まさか、誘拐?
オレを誘拐するなんてどこの変人なのか不良なのか。変人なら鎖とか触った痕がありそうだけどないし、不良……にこんな建物は似合わない
まったくわからない。ここはどこなんだ?

大分体の調子も戻り、周りを見渡して一か所にある扉に気付く
警戒して何の飾りもない扉を押すと、案外簡単に開いた
けれど、扉の向こうはもれなく酔う空間でした

「……んだこれ」

ぐちゃぐちゃしてて、平衡感覚を失いそうだ
廊下があったと思ったら急に捻じれてて天井と逆さまになってるし、階段も逆さまに付いてるところもあって、扉に至っては中二浮いてたりする
なにこれ。酔う

こんな奇怪な原因は大体笑顔が通常業務の先輩だったりするけどこれはなんだか違う
上手く断言できないけれど、これはその原因に会わなきゃ終わらない。その確信だけは持てた
それならば、この先に進むだけ

いくら捻じれててもオレの身体能力ならどこにだって行ける
小回りも大回りも勝手がきくこの体を以外にもそれなりには好いているんだぞ。……いろいろ思うことはあるけど

「さて、次のステージに行きますか」

オレが選んだのは藍色の扉
深海のように深い藍色はひどく落ち着いて、なんだか誘われているようだったから
……こんなんだからクソ先輩とか変態どもの罠に引っかかるんだろうけどよ。自覚してるけど治せる気がしない

警戒しながらも普通に開けた扉の先は……パーティー会場だった
……うん。待って頭が追いつかない

明かりは落とされているのかシックな雰囲気のその会場には、昔のヨーロッパの貴族のような人たちが社交パーティーしているそのもの
入ってしまったら扉は消え、持っていたはずのドアノブは仮面に変わってた。つけろって事?つけますけど

幸い、赤色はないのかモノクロに視界は切り変わらずに済んでいる
しっかしこりゃなんだ?ここ、外国じゃないんだよな?オレがどれぐらい寝ていたか全然わからないけど、まさか一瞬で外国まで連れ出されるはずがないし

そこまで考えて、ふと視線を向けられていることに気付く
顔を上げると、限られた視界の中で目につく長身の男。マントのようなコートを羽織ってる
その人の近くにはメイドの様な人と大人と子供の間のような男女。その四人とも、オレを見てる
とても居心地が悪く、けれど見られていては気になるので自分から近づいた

「なんですか?」
「ああ、ごめんね。私の息子と娘が珍しい客がいると言って、つい見ていたんだ」
「……確かにこの服はここでは珍しいでしょう」
「いえいえ!すっごい格好いい服っすね!なんていう服装なんですか?」
「え……学ランっていうんですけど……」

今時はブレザーとかの種類が多いから学ランなんて知らない人もいるのかもしれない
食いつき気味で聞いてきたメイドの様な人に答えれば、その人は観察するように見てきた。それには呆れてる長身の人
ついでに男女は何も言って来ない。仮面で目はよくわからず、口元しか見えないから女の方は無表情な一文字で男の方は不機嫌なへの字としか見えない

ここはどこだか訊くのにはちょうどいいかもしれない
そう思って口を開いたとき、一方が眩しくなった

「ただいまから、劇が始まります。お客様には申し訳ありませんが、しばらくの間、お静かにお願いします」

映画館で流れるようなブザーの音。始まる舞台に拍手をする観客たち
何かがおかしい。何かある違和感を考える間もなく、一人の役者が舞台袖から出てきた

「ある日のことです。二人の青年がとある屋敷に迷いました」

青年のような恰好だけども侮るな。オレは男女の見分け方はできるほうだ
だから直感でこの役者が女だとわかる。例え声とか外見が男でも、やっぱり違うとこは生物学上……どっかのマッドサイエンティストと同じになるけど違いはあるものだ

てか、そんなことより
その役者が進める話は聞いたことがあった。具体的に言うと、すごく最近、直接体験した身内から

「黒い何かは囃し立てる。まるで、彼らを誘うように」
「っ」

目が、合った
途端に走る嫌悪と恐怖。なんでだ?何が怖い?わからない
わからないのが怖い。ここにいちゃいけない

本能が告げるその警告を合図に、走り出す
何処へかなんてわからない。舞台に、話した人たちに、背を向けてただ走る

「『ようこそ。僕の続く話の中へ』鏡を見ていた警戒しすぎている青年に、緑色の目をしたこの屋敷の元当主の声は届きませんでした」

だから、知らない
オレに投げられていたであろう、ヒントのような言葉なんて



  


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