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闇に蠢く存在が、我に気付き身を潜める
我を知るモノが、恐怖を纏い身を隠す

ああ、忌々しい

境界を越え、随分と久しき外の世界は相も変わらず人が行き交う
東洋とは違う西洋の国。だがどこだかは皆目見当がつかぬ
我の記憶は当の昔、我の愛おしい存在が愛でて必要とした草花や木々が今より多くあったころで止まっているのだから

陽の光は眩しく、長らく光など存在しない狭間を歩いていたからか、我にとっては苦痛でしかない
その苦痛から逃れるように建物と建物の間、陰となっている場所に入ったが気分はすぐれない

当たり前か
この姿は、憑いている姿ではないのだからな

それに自嘲し、何も思わず奥へと歩いていく
光りが届かぬ故に氷のような空気が流れるそこは、自我がないものにとっては住み心地が良いのだろう
自我がないが故、我を気にせずうろつく

大分奥に行くと、これまでとは違う気配がし出した
人の気配。だが人にしては異質な気配
その気配を辿れば、随分と血生臭いところに出た

何人もの人間が赤く染まり大きな水溜りに沈んでいる
その中心にいるのは背丈からしてまだ幼い女子。異質な気配はどうやらその小娘から出ているらしい

「……人ではない子だ」
「!!……だれ?」

つい呟いた言葉に小娘が反応したことに驚いた
我は今は肉体を持ってはいない。我の力を使い姿だけを作っているだけ
それは即ち、普通の存在は我の姿、存在すらも認識できないということ

なのにこの小娘は気づいた
振り向き、満月のような瞳に我を映す。赤い何かを所々に付けているのにも関わらず、その瞳は澄んでいた
それがさらに異質な気配を雰囲気として際立たせているということに、この小娘は気づいているのだろうか?……いないのだろう

「小娘、我が見えるか?」
「……なに言ってるの?……あなたは、だれ?どうしてここに……」
「……」

小娘の疑問に答えず、我は近づく
近づくだけで濃くなる気配と臭い。気に喰わない。そう思い、顔を歪める
只でさえ人間というのが憎いというのに、それに加えてのもう一つの異質なのは我が嫌悪してならん者のひとつ

「そなた、人間ではないな」
「……な、に……急に……」
「人間の血よりも違う血筋の方が色濃く残っておるぞ……さぞそれでは人間の世界では生き難かろう」
「っ……あんたに、何がわかるのさ!!」

満月の瞳に怒りを浮かべ、理性を失くした獣ののように身構え攻撃してくる小娘
いや、理性はあるのだろう。少し本能の方が強いのか、獲物を狩るためだけのように飛びかかってくる
我は特に何も思わず、動かずいる

動く必要はない
何故なら我は

「ひっ、な、なにこれ……!?」

生きたくなくとも生かすモノがあるのだから
黒い煙のような、水のようなモノは飛びかかってきた小娘を捕らえる
小娘の満月の瞳から怒りはなくなり、少しの恐怖と驚愕が浮かんでいた

その黒きモノを何と問われても我には答えられぬ
ただ、我の一部であり、我の本能だけのモノであり、我を生かすことを前提に動くモノ
そうとしか我は記憶にしていない
詳しくは我も知らないのだから。事実、我は我自身のこともよくわかっていない

「離せ!!うがっ……」
「暴れている内はただ殺されるのみだぞ。我は今は特に腹が空いておらぬからそなたを喰わんが、無駄に殺されて行くのを見るのも好かん」
「ははっ……私が、死ぬって?……ぐっ……私が、こんなもので、死ぬか!!」

怒り、というよりも自嘲ともとれる声を荒げ、小娘は我を睨む
騒がしい。そう思うと小娘はより苦痛に顔を歪めた。どうやら黒きモノが力を強めたらしい

「死なぬとは……我と同じか?いや違うな。そなたは闇に属性しているが、それにしては有り得ぬほどその気配は清い」
「なに、言って……」
「この気は……そなた、まさか……」
「夜美を離さんか!!」
「っ!!」

新たに現れた気配に急いでその場を離れる
黒きモノも何かを感じ小娘を離し我の周りを囲む。咳き込む小娘に近寄る一人の存在に、我はこれほどと言ってないほど顔を歪めた


  


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