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影side

手紙の内容は簡潔だった
お姫様を救出せよっていう一文と一枚の写真。それを見た瞬間、走り出した
一枚の写真に写ってたのが、夜美さんだったから

何処にいるのか
探すのにはいろいろな協力を仰いでやっと見つけた
それは廃工場で。誰かが数分前に買い取った場所

その誰かっていうのはすぐわかる
オレが追っていたクソ先輩だって
あの変に富豪の先輩は時たまありえないことをする。だからなんとなく確実にいるとわかった

ただ……
めんどくさくて屋根飛び回った後に廃工場の上から攻撃したんだけどさ
だってめんどくさかったんだもん!!

この衝撃でクソ先輩死んでないかなーっと思ったら普通にいた
瓦礫の下敷きにならなかったのはこの先輩が妙に悪運が強いからか

「バケモノって全員考え無しなのぉ?」
「下敷きなって死ねよ」
「くすくす、君忘れてない?僕と一緒に夜美ちゃんまでいたんだよー?」
「や、み……夜美さん!!どこですか夜美さん!!」

ああそうだった!夜美さんはこのバカに捕まっていたんだ!
どうしよう夜美さんが怪我でもしたら。いや最悪オレは夜美さんを……
イヤだイヤだイヤだ!夜美さんを、こんな奴より夜美さんを探さないと!!

「そのよそ見、だいっきら〜い」
「っ」

先輩から視線を外していたら何かが視界の端を横切った
モノクロに変わる視界に馴染むまでの時間なんて気にせず先輩から距離をとる
ヒリヒリして何か伝う頬を撫でたらヌルリとした感触。……かすり傷

モノクロの視界で、先輩が笑っていた
手には先輩の愛用の刀を持ちながら

「くすくす、バケモノの血は何味かな?甘い?塩辛い?それともやっぱりただの鉄の味?」
「知るか。……先輩、オレはあんたなんて相手してるヒマないんですよ。夜美さんを探したいんです」
「ヤダ。僕は遊びたい、のっ」

一蹴りで急接近しに来た先輩をかわす
学ランの裏からパイプを取り出して先輩の頭に振るう。間一髪で避けられた
避けられたら避けられたでカッターナイフの刃を出して投げる。刀で弾かれるのは想定内。だから弾いた瞬間に鉄パイプを横に振る
それには驚いた顔の先輩。反応が遅れたみたいで後ろに跳ばれたけど先輩の服は少しだけ切れた
まぁ切れるのはこの鉄パイプの先が斜めになってて尖がってるもんだからな

服が切れただけで、皮膚は切れてねーのか先輩の白いシャツに黒いのは広がらない
ちっ、少しは怪我すればいいのに

距離を取ったまま。そこにいた
すると先輩の後ろに黒いのが見えた
それは、モノクロの視界だけど誰だかわかる

「夜美さ――」
「えっ……」
「――ん?」

先輩のお腹のあたりから何か飛び出てる
それは、先輩の刀に似てたけど違う気がした

引っ込んだと思ったら先輩は倒れた。倒れた先輩の向こうに、オレが探さなくちゃいけなかった人がいる
先輩は動かない。なのに、その人は刀の先を先輩に刺そうとした

「夜美さん!!」

振り下ろされる前に夜美さんの手を掴んで止める
なんて力が強いんだ。オレで互角って……夜美さんはいったいどんな力をしてるんだ?
こうして押し合ってても意味がない。そう思って刀だけ違う方向に飛ばす勢いで鉄パイプを当てた。運が良かったと思うほど、飛んでく刀

けど夜美さんは今度は先輩の首に手を伸ばしてる
今度は素手!?急いで夜美さんの手を封じるも、夜美さんは先輩しか見てない
ああもう!!

「夜美さん落ち着いてください!このクソが夜美さんに何言ったんだが知りませんが夜美さんの手が汚れてしまいま「もう遅いよ」……はい?」
「もう遅いの!!」

泣き叫ぶように
夜美さんは座り込んで下を見る
その体は密かに震えてるようにも見えた

「夜美さん?何が遅いんですか?」
「私はっ、私はこの手で何人も殺してきた。壊してきた!だってわからなかったから!私は普通じゃないから、おかしいから、化け物だからみんな離れていった!」
「夜美さん?わっ」

急に顔を上げた夜美さん
危なかった。今危なく頭ぶつけるところだった
夜美さんの泣き顔を意識したくなくてそんなことを思った

手が痛い
ちらりと見れば、オレが夜美さんの手を封じてたのに何時の間に夜美さんがオレの手を握っていた
これは後で痕になる気がした

「影は私が普通だと思ったから心配したんでしょ?私は普通じゃないんだよ!誰だって私に言うよ!化け物だって!私だってこんな体イヤで、だから私は!」
「夜美さん、あなたはオレから見て普通ですよ」
「……え?」

止まった夜美さんの叫びに安心したけどもとオレはそんなに変なことを行ったかと考える
でも事実だし……何が変だったんだろ

「裏の職業の時点で普通とかどうでもよくなりますし……夜美さんの何が化け物なのかオレは知りません。知らないから夜美さんの異常を怖がってないだけなんすかね……。夜美さん、オレも化け物なんだそうです。いや化け物と自覚してる点はありますが認めませんよ。ついでにオレは狂ってるらしいです。一体何が狂ってるのかわかりませんが。……遠回しにすみません。やっぱ直球で言います。夜美さん、オレと友達でいてください」

夜美さんが何で泣いてるのか
夜美さんが何で苦しんでるのか
知りたいけどわからない

オレは普通じゃない
オレは狂ってるらしい
だったら夜美さんと友達になろうとするのも狂っているのだろうか
んなことに「はい」っていった奴は殺るぞゴラ

「返事をくだされれば、嬉しいです」
「……わた、私は……」

モノクロが消えていく
色とりどりの視界で大粒の涙を流す夜美さんの目は金色でキレイだ

羨ましいです
オレは、泣けないから
泣きたくて泣きたくて堪らないのに、オレの表情筋がおかしいのか涙は出ない
涙を出せなくなってかれこれ何年経ったのかなんて覚えてない

「ばい゛……私、私なんがで……いいな゛ら……」
「……ありがとうございます」

普通じゃないとか、異常じゃないとか
そんなの関係ない。オレが友達を求めるのは多分……
……そんなこと、知らなくてもいいか

夜美さんが泣き止んだら夜美さんと一緒に遊びに行こう
この町にいれるのは今日とギリギリ明日の朝日が上がるまでなのだから


  


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