[ 4/8 ]


この時代にこの言葉はないのか、呆けた顔のツバキさんを見てたら俺の腕の中からツバキさんが消えた
顔を上げれば、ツバキさんは見事に伯爵の腕の中

「う、え?は、伯爵!?」
「さすがにさっきの体勢のままはつらいんじゃないかなと思って」

ツバキさんに笑いかけてるけどカインさんの目は少しだけ笑ってない
怖い怖い。人の恋路を邪魔したら馬に蹴られるってよく言われるけど本当だね

こっちに目線を向けてくるカインさんの反応を少し見てみたいと思ったけども、俺は人様の面倒事に関わる気はない
だから不自然じゃない程度には退散させて貰うよ

「変態なんてキライだぁあああああ!!!」

遠くからでも聞こえる叫び声はバカ荒の声
さすが荒だよ。脳みそは小さいけどちゃんと目はきくし指示通りに動くからそんじゃそこらの利用価値のない奴らよりマシだ

目で荒が勝手に向かう先を確認し、慌てたようにどうしようとオロオロする
勢いよくぱっとカインさんたちを見たら、どうやら事態に付いて行けてないようで。とても好都合

「すみませんカインさん!あのバカ迷子になりやすいんで連れ戻してきます!!」
連れ戻すなんてウソ。本当はここに戻ってくる気なんて少しもない
走り出す瞬間、カインつさんとツバキさんを見てやっぱり戻らないと決めた

カインさんも、ツバキさんも、両片想いってやつなのかもしれないとどことなく思った
俺は俺自身鈍感でないと思っている。逆に敏感過ぎて人の目や感情を読み取ってしまう
だから、俺は見た。感じた

その感情は何千回、何万回と見た
全部ってわけじゃないけど大半は俺に向けられて
拒絶するわけじゃないんだ。嫌悪してるんじゃないんだ
ただどうしても受け入られない。その好意の塊である感情すらも

「「……怖い(コワッ!?)」」

……今、荒の声とかぶったような……
顔を上げればいかにも外人といった長い金髪の男と、その隣に荒がいた
キュンバスと筆……画家?この敷地内にいるってことはカインさんの知り合いなのか?
一応警戒していると気付いた荒がこっちを見てきた

「星!来んの遅ーぞ!」
「……荒が考えずに走っていくからだよ」

本当は途中で走りから歩きに変わっていたみたいだからなんだけどこんなバカに言わなくていいか
荒が俺に話しかけてきたら、イスに座ってキュンバスに向かっていた男も俺に気付くのは当然
一瞬きょとんとしてたと思ったニコニコと満面な笑顔でこっちを見てきた

「お前がセイか?コウから教えてもらったぞ!私はジオだ」
「……はぁ、確かに俺は星、ですね。……えっと、ジオ、さん?」
「呼び方は好きにしてくれ!」

響くってわけじゃないけどそれなりに大きな声で言うジオ、さんに誰が重なった
誰だっけ?……あ、この笑み。この何も考えてない笑み、荒と似てる
どうりでこんなにイライラするわけだ。会って早々の人に失礼かもしれないけど、俺とは相性が悪い

ここはさっさと切り抜けたほうがいいよね
なるべく苛立ちを抑えて温和な笑みを浮かべる

「あの、ジオさ「そうだ!風景画にもあきてきたところだから星を描かせてくれ」……は?」

あまりにも突発過ぎて一瞬素が出かけた。いや出たのかもしれないけど
俺を描く?俺、言って悪いけど美術の時間が、相手を描くが嫌いだったね。相手の女子は俺の表情なんてちゃんと見ていないから

期待もしていないし絶望もしていない
ただ女子生徒が見てる俺があまりにもその女子の願いみたいなのそのままでさ
嫌いなんだよ、これもまた

「早く座ってくれ!楽な姿勢でいいぞ」

思い出していたら流されイスに座らされた
……俺としたことが!何変なのに浸ってんの!?バカでしょ自分!ああ自分だけど殴りたくなる――

ジオさんといい、口出しせずむしろ楽しんでる荒といい、自分といい、本当に苛立ちしか浮かばなかった
さすがにもう素を出して相手を不愉快にさせようかと思ったとき、嫌な感じがした

ゾクリと背中に寒気が走る
体が一瞬で重くなって、手足がしびれてきた
なんだこれ?え、何、寒い、苦しい痛いおかしくなるおかしくなりそうぅううああああああああ!!?

過呼吸気味になってきたところで荒が異変に気付いて寄ってくる。けど直感でダメだと思った
顔だけ上げて、手を突き出す。来るな。これは普通≠カゃない

驚いているジオさんを視界に入れた途端、何かが見えた
『そいつ』はジオさんとは違う黒髪で、何故か目が緑色だとわかった
後は、なんだろ。とても、とても気持ち悪い笑み。どこがで、見たことある……ああそうだ

「ゆう、や、先輩?」

俺の意識はそこで途切れた



  


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -