「現」
「……」
「現」
「……」
「……うぜえ、よ!」
「っ……」

いつまでこいつはオレの手を引っ張る気なんだ。思いっきり払って手を見ると少しだけ赤かった
ちっ。やっぱりな。痛いはずだ

赤いところをさすりながら現を見ると、急に現が抱きついてきた
ちょ、苦しい!身長差もあるからか体当たりされたみたいな衝撃もあるし!?

「は、な、せっ!」
「……」
「おいっ!」
「……影さん。影さん。影さん影さん影さん影さん影さん」

だめだこりゃ
オレの肩にうずめられて顔は見えないけれど抑揚なくオレの名前を呼び続ける今の現には何を言っても無駄だ

半端諦めてそのままでいる
無駄なことをして体力と気力、両方とも削りたくないし、第一に、なんで現のスイッチが入ってるのかわからない
いつものように変なことを口走らないでただただオレの名前を呼び続ける現はどう対処すべきなのか未だにわからない

運が良ければ何かで反応を返してくれるけど、それは極マレ
だからオレは何も出来ない
これはオレにとって、嫌なことだ

「影!こんな奴にそこまでしなくていいの!」「ぅわっ!?」

後ろから持ち上げられて現から離される
抱きしめてくる力は強くなったけれど隙を突かれたからか簡単に離され、今度はちゅうぶらりんで抱きしめられた

カトちゃん……容赦ないなぁ
多分あのままだとオレは何もできずにそのままだったからありがたい。けれど、宙ぶらりんはつらい

「カトちゃん。現から離してくれたのはありがたいけど下ろしてくれないかな?」
「え〜……現にはそのままにしてたじゃない」
「それはそれ。これはこれ」

強くない、微かな香水?の匂いは好きだけれどもこの体勢は好きじゃないんで。すんません
現とは違い聞き分けが良い方であるカトちゃんは納得いかない声を上げながらも降ろしてくれた

「現」
「……」
「現」
「……影さん」

顔を上げた現は、泣きそうな表情だった
なんでこいつは泣きそうになってんだ

わからないからため息をついてしまうと、現は涙目になりながらまた近づいてきた
けど今度は抱きしめてきたり手首をつかんで来たりしない。真っ直ぐ、オレの目を見てくる

「影さん、大好きだよ」
「……そうか」
「僕は影さんに傷付いてほしくないんだ。影さんがどんなに平気だと、もう慣れてしまっていても」
「……」
「影さんが大切だから、ガラスのような言葉は聞いてほしくなかったんだよ」

……うん。やっぱりわかんなかった
大粒の涙を何故か流し出した現にまたため息をつく。そして今度は手を伸ばして頭を撫でてやる
驚いた顔の現と小さく「いいなー……」という後ろからの呟きは無視して、思いっきり撫でまわしてやった

てか男のくせになんだこの髪質は。良すぎだろオイ
髪の手入れなんてしないに等しいけれどそれでもなんか傷ついた。言葉よりこっちのほうが傷ついたぞ

「オレがどうなろうがオレはオレのしたいようにする。それがオレの選んだことだから。だからオレは迷わず危険にだってなる。そんな時までは守らなくていい」
「……守るよ」
「オレは守られるほど弱くない」
「弱いよ。だから強いんだよ」

矛盾じゃないか
頭から手を離して歩き出した。もうすぐチャイムが鳴るし、そうしたら義清とのリアル鬼ごっこ開始だろうから

と思っていたら足からガクンッといって転んだ
いったぁ……なんだよ……
足元を見ても、何もなかった。一瞬だけ、宗人さんの顔がよぎる
……え、なに、こわ

「影さん」
「あ」

ちょっとだけ放心していたら現に立たされた
……なんか、屈辱だ。助けてもらったようなものだからおかしいんだけど

見上げたら現は笑っていた
いつも通り、さっきの泣き顔がウソのように。でも目元にある雫がそれはウソじゃないって裏付ける

「僕は影さんを守りたいんだ。大好きだから」
「……あっそう」

いつからだっけ?きっとこれは何回も繰り返し言われている気がする
でもちゃんと覚えていないのは、きっと
オレに必要がなかったんだと思う

「ずっる〜い!!だったら私は影を守って守られたいわ!!」
「なに急に割ってきてんのさ!!影さんは僕のなの!!」
「カトちゃんも当然守るよ。だかしかし、オレは人権手放さねぇぞ」

鐘が鳴る
外れている、聞きなれた音
さて、これからのことを考えよう

そのことにちょっとだけ憂鬱になってまた外を見る
雨は止みそうもなく、降っていた
……湿気で濡れてたから滑ったんだろう……
変な気分になるのもこの空気のせいかも
だから雨はあんまり好きじゃないな








prev/next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -