「影さんを返して!」
「か、影だって先輩のこと苦手って知ってますよね!」
「……うるさいですよー」

いじけたような声
動かせて頭で先輩を見上げれば先輩の目はうるうるしてた
それは一発で、素で、泣きそうだってわかる

気まずいというより焦ったような現たち
オレはどうせ動けないから諦めてたけどそんな場合じゃないと思った

「私だって、私だって、影と一緒に遊びたいの!遊ばせてよ!私の歌を聞いてくれる人で拒絶してくれるのは影だけなの!もう現君もカトちゃんも―――










死んじゃえ!」

子供の癇癪と似てるようで
けれどそこには無邪気じゃないただの殺意
その声は、悲痛で、耐えられなくなったのかのように吐き出された

「「……は、い」」

現とカトちゃんの目から光が消え失せる
まるで操り人形のように、教室内にある窓に近寄っていく

止めなきゃ。けど体が動かない
止めるんだ。じゃなきゃ、二人が

跳び降りちゃう

「時乃!!」
「動きを止めろ安直共」

動かせないオレの代わりに二人を止めたのはよっちゃんとハッカー
理科準備室から出てるハッカーが珍しくて一瞬幻かと思ったぞ
暴れたりはしないが窓に行こうとする二人を抑えてるのか、あのよっちゃんが震えてるように見えた
ハッカーは……ロボで押さえてる。そこはせめて自分の力使えよ。引きこもりは力ない?知るか

「くっ、女とはいえ催眠の力は強いな……」
「ロボを貸してやるぞ」
「いや、手錠で動きを封じれば何とかなる」

離れた場所で現たちの動きを封じにかかってるよっちゃんたち
オレもそっちに行きたかったけど体が重くて、第一にぬいぐるみを抱きしめるように先輩が離さないからムリ
時たますすり泣く声が聞こえるから、先輩は泣いてるのかもしれない

子供のままのような先輩はあまりにも芸能界なんて世界で生きていくには無謀に近いと見えた
けど先輩にとって世界は悲しくて、ある意味生きやすい世界だと思う

「……雪先輩、現たちの催眠術解いてください」
「っ」

ピクリと後ろで先輩が微かに反応した
やっぱり催眠をかけてしまってたいのか
これが意識してとか無意識でとかの話はあとにしよう

「……ごめんなさい。……現君も、カトちゃんも、命令聞かなくていいよ……」

先輩がこの部屋内にいれば聞き取れる程度の声で言う
すると現もカトちゃんも窓の方に行くのを止めた。ぱちぱち瞬きをしている目にはいつもの光

「……あれ?僕……」
「ちょ、なんで手錠だらけなの!?」

さっきまでのことなんか忘れてしまったような二人
実際前後の記憶が多少抜けていと思う

雪先輩は、魔性の声の持ち主だ
その言葉通りに相手に絶対命令を出せる
本気になればたった一言だけでも言うことをきかせることができる
その本気は自分の意思と関係なく、さっきみたいに感情が昂りすぎてしまうと発動せざる得なくなるらしい

「………私は、殺そうとしてないもん……」
「……でも先輩は自覚してますよね、自分の声。間接的でも現たちが死んでしまうかもしれなかったですよ」
「……」

他の誰かなら先輩に悪くないと判断を下していただろう
だけどオレは先輩の声が嫌いだから効かない。先輩の声に背くのは先輩に好意を持たない存在らしい
先輩の声は嫌いなのだ。何故かわかんないけどその声を聞くとぞわぞわ寒気が背中を這い回るし、気分が悪くなるって体力精神力が削られる
だから先輩の声を間近で聞いていた今、動けなかったのだ

嫌いで嫌いで
だから先輩にそれを言って関わりを失くしたかった
それがこうも好かれるとは
本当にこの学校は変だ

「……ごめん。ごめんなさい……現くん、カトちゃん……でも、私は……拒絶してくれる人が欲しいの……」
「…………」

……早く離してくんないかなー











「「時たまいいですけど影(さん)僕(私)のなんで殺さないでくださいね」」
「折角のファンを殺したりしないわ!ただ愛でてるだけよ!」
「……そろそろオレの気力が持たない……」
「俺はまだしばらく監視しているがはかきはどうする?」
「研究室(理科準備室)に戻る。魔性の声を解明するより先に今しているのを終わらせる」





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