【歌姫】

芸能界に入りたてだというのにその声とファンにより一気に有名になった
その声は普通に聞いても綺麗で、歌えば皆がその声の虜になる
悲しみに、喜びに、怒りに。その歌に入る感情を読み取ったら最後、歌姫の虜になり哀れにも操り人形になるだろう
何人足りともその声に深入りしてはいけない。たとえどんなに警戒しても、どんなに己を保とうとしても
その声に服従し、自分の自我をなくす




そう。テレビやインターネット内で有名な雪先輩は異名でも芸能界でも歌姫と呼ばれている
雪先輩の声は綺麗らしい。ずっと聞いていたいくらいに
けどオレは、そう思わない

「準備終了!湖ノ上先生早退します!」
「……朝霧さん、遅かったと思うよ」

バラバラバラバラバラ

担任教師である湖ノ上先生に早退を伝えた途端、外から何か、電動の音と風を切る音がしだした
だんだんとそれは近づいてきてるみたいで、音も大きくなってきた

『キーーーーーン……あーあー、マイテスマイテス』

食堂で聞いたあの声がマイクを通して職員室にまで届いてきた
思わず、頬が引き攣る(表情はわかんないけど)

『えーっと……影ー、あなたの嫌いな先輩が来ましたよー!』
「イヤァアアアアア!!誰もお呼びじゃないぃいいい!……おえっ、吐きそう……」

常識外れもいいところ。どうやら歌姫と呼ばれる可愛いと評判の先輩はヘリコプターで登校してきたみたいです
……オレが言って良いのかわからんけどヘリで登校してくんな!!

* * *

「会いたかったわよ影。相変わらずの小学生体型ね!」
「……もうヤダ……家に帰りたい……」
「ほっぺぷにぷに〜。ちょっとがさついてるけど、エステの人呼ぶ?」
「……結構です」

只今疲れ切って雪先輩の膝の上
無駄な抵抗せずにいますよ。あははははは……一思いに殺してくれ……

普段のオレなら抵抗するだろうけど一応雪先輩は女性だし手が出せない
それと雪先輩の声がもう、間近過ぎる。おかげで精神も体力も徐々に減りつつある
ずっと背を雪先輩に預けてるのがその証拠です。はい

「雪先輩!今すぐ影さんから離れてください!」

おー。ここでまさか声を上げて来たのは現
もうこの状況から抜け出せれるなら変態でも「影さんの体を弄っていいのは僕だけなんですよ!」訂正撤回。変態は今日も元気に変態だ

よく見ると現の後ろにはカトちゃんもいるようだ。仲が基本悪いのに珍しい
ただやっぱり雪先輩がいるから耳を塞いでいる。現は感情昂ると人の話聞かないからいいとして、カトちゃんは一応人の話聞くしな
聞かないようにする、なんて難しいことなのかもしれない


「ええー、現君も時乃ちゃんもいっつも影を独占しててずるいです!」
「「影さんは僕の(私の)だから当たり前!」」
「……違う……」

もう少し大きな声で否定したかったのにそんな気力すらなくなっていく
疲れてきた。体が……怠い……




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