トイレにすらも付いて来ようとする現を殴り、さっさと向かう
トイレに入ろうとしたら、ケータイが鳴った

「……もしもし」
『番長、下の奴らが敵対してる不良グループに捕まりました』
「……は?」

電話の相手は紅ノ原。紅ノ原の説明によると、オレの舎弟が数人捕虜になったそうだ。相手の要求はオレ
オレはその報告にいいようのない苦しみと呆れから深呼吸した
焦りそうになる頭をなんとか冷静に動かし、考える。いろんな作戦や場合、可能性が出てくる

「場所は?」
『○▲番地の溜まり場』
「わかった。オレだけで行く」

オレは元番長ってやつだからもっと警戒しなきゃいけないんだろう。自分の身の安全とか、自分自身を心配すべきなのかも
でも、オレはいつからか自分を心配することがあまりなくなったんだ

紅ノ原との会話途中で電話を切り、走り出す
帰ってきたら甘いもの食べたいなぁ

 * * *

不良の溜まり場は相変わらず陰気臭い。それに薄暗いから好きじゃない
歩いていくと、数名の気配がした

「……モノクロ破壊者」

たった一言。異常を示す異名を言えば、周りの気配から敵意、恐怖、……そして殺意を向けられる
居心地悪いな……。そう思いながら相手の出方を待った

「よう……本当に一人で来ただろうな」
「……そうだけど」

一応、来る前に確認した。だから、いないはずなんだよ
記憶にない不良のリーダーみたいな人が指示して何人かの縄でぐるぐるにされた奴等を連れてきた
……あ、どうしよ。あんまり覚えがない
学ランにうちの学校の紋章あるからうちのメンバー、か?……紅ノ原にもっと聞けばよかった

「ば、番長……」

あ、うちのだ。今のご時世に番長とかオレしかいないやん

「まずは人質の解放」
「先にこっちの要件が先だ」
「……なんだよ」

訊けば男はニタニタ笑う。なんとなく、言われることがわかって少し脱力した
また怪我するのかー。病院?それとも家で安静かなー

「俺らのサンドバックになれ」

やっぱりか
あまりにもそこら辺の奴等と同じ要求で特に何も感じない

「いいよ」
「番長!しなくていいです!俺たちはーー」
「うるせぇ!」

舎弟が殴られそうだった。だから地面を蹴り、舎弟の一人の前に立つ
当たった拳が痛くて、口の中が切れた気がした。あおたん確定
そして、視界がモノクロに染まる

「……手、出さないよな?」
「ひっ……」

ただ目を見ただけなのにオレを殴った奴は怯えたみたいだ。……なんで怖がるくせにケンカ売ってくんだろ
ホント、わかんない。なんで怖がってるくせに関わってくるんだろ
それが人なのかなー

ぼーっとしてたら数人の男に囲まれ始める。今回は随分と準備がいい
二度目なのかな?でもオレの記憶の中にはないんだよなぁ。忘れっぽいから仕方ないけど

「んじゃ俺から」

一人が進み出てきた。いくらオレの傷の治りが早くても、骨折とか骨や内臓に異変が起きたら入院だよな
金かかる……賠償金求めてもいいかな?傷害罪で訴えようか?……いやオレも同罪か

そこまで考えていたら殴りかかってきたみたいだ。避けたい。けど避けちゃダメ
舎弟?がなんかいってるけどわかんなくて、痛みに少しでも耐えようと歯をくいしばった



「ーー何してんの?」

殴りかかってきてたはずの男がオレを越えた。飛んだって言うのかわからないけど、積んであったゴミに落ちたみたいだからから痛くないかも
状況がよくわからない。でも頭のどこかでわかってた。それは、黒の中に見える白で確信に変わる
安心と、呆れと、恐怖が混じっておかしな気分だ

「……もう一度聞くよ。何してんの?」

普段の明るい声じゃない。低く、怒りを含んでいて『そう言えば男だったなぁ』と頭の隅で思う。水色の瞳が、今だけは黒く見えた

「……げん」

誰も答えないから、沈黙ができて
それが息苦しくてオレが現の名前を呼んでしまった。てか口ん中痛い

オレを見てくる現の目は、怖く感じた

「なんで影さん怪我してんの?頬青いよ?誰にやられたの?教えてよ影さんに手を出した奴等全員殺ーー」
「ベ、ベラベラうるせー!」
「あ」

現の登場に固まっていたはずの一人が鉄パイプを現に振った
やめた方がいい。止めたいと
でも糸が切れたようにオレの体はしゃがんで動かない

鉄パイプは現に当たらず、現が掴んで止めた
鉄パイプを見た現の目が細められるた気がする

「……こんなものまで持ち出してさ、影さんをどれだけ傷つけたいの?影さんにどれだけ傷をつけたいの?」
「ひぃ!」
「ねぇ…………答えろよ!!」

感情が爆発したみたいに現は大声を出した後、男を蹴った
男が、飛んでく

「影さんに傷をつけるなら僕だけだよ!影さんが感情を向けるのも僕だけ!邪魔邪魔邪魔!せっかく朝から今日は影さんと会えてラッキーって思ったらお前らごときのせいで時間潰れたじゃん!どうしてくれるんだよ1時間56分3.14、影さんと触れ合えなかった影さんと会話できなかった影さんの傍に影さんの匂いが影さんの声が影さんの表情が全部全部お前らのせいで!」

叫びながらも敵を倒していってるようで、オレが戦ってるときと同じ音がする
……通常なら聞こえない音もするけど、大丈夫か?現のやつ手加減してないのかよ
あ、そうだ。今の現じゃ舎弟たちにまで被害が行くかも

動きにくい体を動かして、縛られてる舎弟たちのところに行く。一人の縄をつかんで、引きちぎった

「お前ら今すぐ逃げろ」
「でしたら番長も!」
「いや……オレはあれ止めなーアカンし、行かん。だから、早く逃げて」

何か言いたげな舎弟たちをただ睨む
そうしてると、背後から気配を感じた

「ちっ」

跳んで避け、攻撃してきた奴をみる
……現だ

「影さんなんで他の男見てるの?僕だけ見なよううん僕だけ見て僕を見てよ影さんが望むなら何でもするから僕だけ影さんは僕だけに全てを注いで」

……ヤンデレこえー。病んでるってこういうことなのか、はたまた違うのか
でも異常なんだよなぁ

チラリと舎弟たちの確認をすると、いない。現にやられたみたいじゃないから逃げたか
よかったよかった

……さてと、オレは現をどうにかするか



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