予定
騙すのは本業
「どこにいくんだ?」まだ幼いその手が私の服を引く
私にもこんな姿の時期があったのだろうと、目の前の人間から意識を逸らしたくてふと思った
確かな記憶なんて、長く生きれば忘れていくのに
「そろそろ私は私の場所へ帰ろうと思って……」
「きさまはおれのだろ?おれのじっけんぶつ、つまりはここにいていいのだ」
私が人の物になるなんて無理だ
ああでもずっとここに居れるなんて何よりも甘美な事かもしれない
そんなことあってはならないのに
出来っこないのに
私は随分と目の前の幼い人間にのめり込んでしまったようだ
「また、戻るよ」
人が言う微笑を浮かべ、目の前の子に言う
目の前の人間は頭は人間の中で誰よりもと言っていいほど素晴らしいけれども
どうも私が本業とすることには向いていない
戻ってくるなんて、できない
この人間とは仮契約の様なものしかしていないから
今のうちに彼から離れたい
「本当か?」
「本当だってば」
うそ
ウソ
嘘
騙すのは私たちにとって珍しくなく
騙すのが普通の事なのに
何故私は苦しい?
息ができないと
まるで人のように泣きたくなってくるのだろう?
「……そうか。では待っているぞ」
「…………ごめんね」
その小さな手が離れた時に
私は幼い人間の頭に手を乗せる
淡い淡い黒色が光る
一瞬のことで、終われば幼い身体は倒れた
私はそれを支え、抱きかかえる
「…………ごめんね」
何に対する謝罪か
それは私にもわからない
人間と同じ感情を全てそろえたのならば
私は謝罪の意味を知れただろうか
いや知れないだろう
知れるはずはない
知ってしまったら私は私でなくなるとどこかで思ってしまい
結局は、私は私でいるためには知らなくていいと思ってしまう
抱え込んだ幼い人間に
私は人間から知ってキスを額に送る
心臓の部分が温かくなるような
満たされていくような感覚に
やっぱり離れて知らずにいようと
決めてしまった
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