「…………」
きゃいきゃいと盛り上がる輪を見て溜め息をひとつ。室内では多くの部員が一ヶ所に集まって何やら騒いでいた。中には猫耳を付けたりシーツを被ったりしている者もいる。なに浮かれてんだよ馬鹿らしい。もちろん普段から部活前後のこういう時間にある程度の騒がしさはあるのだけれど、今日はやけに騒がしかった。いつもの数倍は盛り上がっているんじゃないだろうか。
「…なーにがハロウィンだよ」
ぽつりと呟いた言葉もすぐにかき消される。いつもならそれを拾って突っかかってくるあの先輩も今はあの喧騒の中だ。あーあつまんねえの。大体中学生にもなってハロウィン如きではしゃぐなんて有り得ないだろ。キリスト教信者でもあるまいし。浮かんでは心の中に吐き出されて消える悪態にも呆れを交えた冷めた視線にも誰一人として気付いてはいないだろう。
「……ちっ、」
ああ嫌だ、この、疎外されてる感じ。別にあそこに集まってる人たちにはそんなつもりはないのだろうし、どちらかといけば距離を置いてるのは俺の方なんだけど。だけど、だけど。
「霧野、鬼道コーチが呼んでるぞ」
ぐるぐるとマイナスの感情が頭の中を駆け巡り始めた、ちょうどその時。自動ドアが開いて入ってきたのはキャプテンだった。今日の練習メニューだろうか、紙が数枚挟まれた薄青色のバインダーを抱え、輪の中心にいる霧野先輩を呼ぶ。霧野先輩は彼の呼び掛けにわかった、と反応すると、身につけていた黒のとんがり帽子とマントを脱いですぐに入口の方に、否俺の方に歩いてきた。先輩、入口反対ですよ。なんてそんなことは口には出さなかったが。
「なんですか?コーチが呼んでるんじゃないんですか」
「すぐに行く。それより狩屋、お前」
そんな物欲しそうな目で見てないでこっち来ればいいだろ。彼はそう言うと俺の手に何かを握らせて、くるりと踵を返すと駆け足でドアの向こうに行ってしまった。がさりと手の中で音を立てるものに視線を移す。赤、青、黄色、緑、橙。色とりどりの丸がこちらを見つめていた。
「…なんだよ」
先輩、気付いてたのか。それなら一言呼んでくれればいいのに。別に、あの輪の中に混ざりたかったとかそういうわけではないけれど、呼んでくれたら近くに行ってもいいかなくらいには思っていたし。それとも先輩のことだから呼んでも素直に寄ってこないと踏んでいたのだろうか。そんなことを考えながら手のひらに転がる飴玉をひとつ、口の中に放り込んだ。
「…甘いんだよ、ばーか」
先輩の髪と同じピンク色がじんわりと溶けて苺ミルクを真似た味が広がった。甘ったるい、だけど嫌いじゃない。視界の先ではクラスメートでもある部員たちが、今度はキャプテンを巻き込んで騒いでいる。手に残った飴玉にちらりと視線をくれて、それからそれらをポケットに突っ込んで立ち上がった。
「なーに盛り上がってんの?」
「あ、狩屋!聞いてよ信助がさー」
まだどこか彼らに距離を置いている自分はいるけれど、たまには混ざってみるのもいいかもしれない。ころりと咥内を転がった飴玉に頬が緩むのを感じた。
見透かしキャンディ
(あの人ならばあおい瞳をくれたよ、)
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thx 花洩