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*R-15…?















「本当に魔法が使えたらいいのになー」

テーブルの上に広げられている様々な菓子の中から、チョコレートを一粒口に放って霧野が呟いた。目を向けると彼はもぐもぐ口を動かしながら、くるくると手に持っていた星のステッキを回している。どうした、急に。そう言葉を返すとぴたりとステッキの回転を止めて、別にー、と間延びした声で言った。

「なんとなく、そう思っただけ」
「そんな格好してるからじゃないか?」
「あはは、そうかも」

からから笑う霧野の頭の上には鍔の広い尖り帽子。黒いケープを纏い星のステッキを手にしているそれは典型的な魔女の仮装だ。最初に部屋に入ってきた彼を見たときは少し驚いた(というより怪訝に思った)が、よく見るとなかなか似合っていて可愛い。鮮やかな髪のピンク色と相俟って、例えるのならそう、子供向け番組のヒロインのようなそんな感じ。本人に言うと機嫌を損ねるのは目に見えてるので、決して口には出さないが。

「あ、そうだ」

彼ははたと何かを思いついたように立ち上がった。そしてケープをひらりと翻して、部屋の中央に歩いていく。くるりとこちらに振り向いた彼はステッキの先の星を俺の方に向けて、言った。

「ひとつだけ願いを叶えてあげるよ、神童」

俺に出来ることならなんでもいいよ、と彼は言葉を続ける。突然のことに呆気にとられてぽかんと見つめる俺に、霧野は優しく微笑んだ。せっかく魔女の格好してるんだからさ、それっぽいことしたいじゃん。少し照れくさそうにそう呟く、その姿がとても可愛くてくらりと理性が揺れる。

「ほら、なんかないのか?言ってみろよ」

魔女っ子蘭丸くんが叶えて差し上げましょう、茶目っ気たっぷりに言いながらくるっと一回転する彼を見ながら、俺の口は勝手に動いていた。



「…キス、して、」



かたん、と軽い音がして床にステッキが落ちたのを理解する。握っていた手を離したのだから当たり前といえば当たり前なのだけれど。そんなことはどうでもよくなるくらいに俺の頭のキャパシティは一杯一杯だった。

「…ん、むぅ、っ」

神童の柔らかい唇に噛みつくように自分のそれを押し付けて、お互いの酸素を奪うように溺れていく。歯列をなぞって薄く口を開かせると、くちゅりと小さく水音をたてながら向こう側に侵入した。甘い、と思った。神童の舌は唇はとても甘い。チョコレートとかマシュマロとかテーブルに並ぶどのお菓子とも違う、病みつきになるような甘さ。それをもっと欲しいと言うように熱い舌をぬるぬると絡めとって深く貪ると、鼻にかかった苦しそうな、それでいて淫靡な声が零れて、同時に背中を叩かれた。

「…っ、は、」

離してしまうのは惜しいと思いつつも仕方なく唇を解放してやると、彼はがくんと後ろのソファにへたり込んだ。肩で息をしながらうっすらと涙を浮かべた瞳で恨めしそうにこちらを見上げてくる。

「やりすぎだ、ばか」

顔を真っ赤にして小さくそう言った姿がそれはそれは可愛くて。するりと彼の隣に腰を下ろして頬にもう一度、今度は軽く唇を落とす。ちゅ、と触れた神童のほっぺたはやっぱりとても甘かった。






魔法なんかなくったって僕ら



(お菓子を差し上げますのでどうぞ悪戯してやってください)





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thx 花洩