1
日がたつのは早いものだ。
特に毎日が平凡で、何事もなく過ぎ去る時ほど早いものはない。
でも実際は遅く感じるものかもしれない、よく日本の偉い人はそう言う。
私は午後の陽気にうとうとしながら授業を聞いていると、どうやら最後にテストを返すらしく先生ことアミ彦が順番に名前を呼んでいく。
「遠野!」
「……」
「……千鶴ちゃん」
「……」
「ねえ、千鶴ちゃん無視? 無視なの!?」
私は返事をするのも面倒くさく、うつ伏せに寝てだらしなく机からはみ出た手をたらした。
そしたらアミ彦は何度も私の名前を呼んできて、しまいには地が出てついには泣き出すしまつ。
本当つくづく何でこの人教師やってるんだろうと思ってしまう。
「先生ー私は夏にかけて冬眠します、探さないでください」
「千鶴ちゃん、それ冬眠じゃないよ。今一応春だから」
私の隣に座っていた球人は、バックにうさぎとくまを背負いながら、私にツッコミをいれる。
暫く考えたあと、手をあげ再度「なら春眠しまーす」と言えばアミ彦は親指を立て「わかった」とあっさりと許可した。
「で、春眠先は?」
何処から取り出したのか一枚の紙を机に広げ、何やら書き出し。
よくよく見れば上のほうに「春眠届け」と書いてあるのがわかった。
春眠にも届けを出さなきゃいけないのか。
「なら、球人の布団の枕元」
「僕、毎晩枕元に立たれるの?」
球人は顔を青くさせ、何処か遠い目をしている。
私はその様子がおかしく、笑えば「守護霊としてね」と付け足していった。
「ならボクの所にも……」
「先生の所には呪いに行ってあげる」
少し照れたように顔を赤らめるアミ彦に、私はいつものように笑顔を浮かべて言えば。
これまたいつものように、半分べそをかき、三角座りをして落ち込むアミ彦の姿があった。
「だって先生、先生の所行ったら原稿手伝わされるんだもん」
「だって千鶴ちゃん、トーン貼るの上手いんだもん」
だもん、だもん、と言いあう私たちを後目に、球人はいつの間にか鳴っていたチャイムに気づき。一人部活へと向かおうとする。
「球人、待って! 私も行く」
私は呼び止め、自分の鞄を持ちアミ彦からテストを引ったくれば、急いで球人の後を追い掛けた。
後ろから「待ってーボクも行くー!」と叫び声が聞こえたが、聞こえなかった事にしようと思う。
[ 2/2 ]
[始] [終]
[表紙へ]