Act.1忍者くる!

「えっと、ここ何処だろう……」

 辺りを見回し、手に持つ紙を見る。
 今、私は窮地に陥っているのかもしれない。
 自然と流れる汗。それは背中を伝い流れていき、手は震えてだした。

「……み、道に迷った」


 イタリアでの任務中のことだ。
 突然電報が来たかと思えば日本に飛べの一言のみで、日本に着けば地図を渡され放置状態。
 まあ、リボーンさんのことだから迎えに来てくれるだろうと思っていたら昼過ぎても、夕方になっても来なく少しばかり切なくなってきた。

「私の力で行けと言うのかリボーンさんは」

 自然と漏れるため息と、涙。
 ああ、私は今日屋根の下で寝れるのかな。
 そして、歩きだしてはや二時間。私は案の定迷っていた。

「沢田って、どこなのー」

 大きな道路から、気づけば住宅街。
 ああ、もう今日は学校で泊まらしてもらおうかな。
 私は隣に大きく建っている、学校へと足を踏み入れた。
 学校名は、並盛中学。
 中学校か、私の年だと通わなくてはいけないな。
 小さい頃から何かと危険な道を踏んでいたおかげか、せいか。
 年相応以上に知識だけは豊富だ。
 日本では、そうだな天才かもしれない。
 天才か……天才だったらいいな。
 正直な所、知識だけあるだけで、それを披露したことなどなかった。
 私は自分の人生を振り返り、普通の子どもになりたかったと今ではどうしようもないことを思いつつ、手頃な木によじ登る。
 寝袋を紐でくくりつけ落ちないようにすれば簡易宿の完成だ。
 ああ、今日も月が綺麗だな。
 私はそう思い、寝袋に入ると目を閉じて眠りについた。

 朝、騒がしい音に起こされた。
 目を覚まし、木の上から剣道場と思わしき場所に目をやれば人が大勢集まっていく。
 全体集会だろうか。いや、それなら体育館か。
 私は木から降り、かぎなわを剣道場の屋根にかける。
 ちゃんとかかっているか少し引いたのち、壁に足をかけそのまま剣道場の屋根によじ登った。
 そして上から窓の中を覗けば、沢山の人の真ん中に裸体で人にまたがっている人がいた。
 下の履物は履いているが……恥ずかしく無いのだろうか。
 しかし、凄い気迫だ。
 私は手に汗をかき、その様子を見る。
 裸体男は手刀で面を打つきだろうか。
 高々と手を挙げ、勢いよく下ろし、髪をむしり取っていく。
 遠くからでもわかる、その髪の量。
 私は思わず頭を押さえ痛そうだと思いながら、その光景を眺めた。

「ちゃおっス」
「あ、リボーンさん!」

 いきなり肩を叩かれ、声をかけられ振り返ると、そこには昨日見つけれなかったリボーンさんが私と同じようにぶら下がっていた。

「リボーンさん、昨日は何故迎えに来てくださらなかったんですか」
「昨日は何かと忙しくてな」

 リボーンさんは、そのままクルリと回り下に着地した。
 私もそれにならい、着地するとリボーンさんは剣道場を指差した。

「会ったか?」
「会ったって……誰にですか?」
「十代目候補にだぞ」
「十代目……ああ、あの人ですか!」

 私は先ほどの裸体男を思い出すと、十代目の未来が少し心配になってきた。
 裸体男か……、いや、人は見掛けによらないって言うしな。

「あ、そうだったリボーンさん、あの人から手紙と言付け預かってきました」

 私は鞄から、一通の手紙を出すとリボーンさんに手渡し、言付けを伝えた。

「元気ならそれでいい、また遊びに来いよとのことです」
「そうか、あいつも頑張ってるようだな」

 リボーンさんは手紙を見終わるとそれを破り、火をつけ燃やした。
 マフィアの世界では、どんな手紙でも残してはいけないようで皆すぐに火をつけて燃やしてしまう。
 だが、時々本当は燃やしたいだけなんじゃないかと思う。
 そのぐらい、燃やしまくっているからだ。そのくせ、本当に大事な物は残すしな。

「おい、葵帰るぞ」
「え、帰るって私もリボーンさんの所に住んでいいんですか?」
「ママンから許可もとったからな」

 私は先を歩くリボーンさんの後を追いかける。
 その背中にお礼を言えば、リボーンさんは振り返りニッと笑いまた歩きだす。
 ああ、やっぱり私一生リボーンさんについていこう! 改めてそう、心に誓いながら暫く歩いて行くと一軒の家の前についた。

「ここだぞ」
「へー普通の家、なんですね」

 十代目候補の家は至って普通の家で私としては拍子抜けだったりする。
 表札には沢田の文字、小さな庭は、草が綺麗に揃えられている。
 きっと、前の時の家が異常なだけで、本当ならばマフィアとはこういうものなのかもしれない。

「おい、入んないのか」
「え、あっ入ります!」

 一人、悶々と考えていればいつの間にかリボーンさんは扉を開けており、私は慌てて中へと入っていった。
 しかし、私は本当に入ってよかったのだろうか。
 少し戸惑いながらもリボーンさんの後に続いて靴を脱いでると、足音がこちらに向かって来て廊下で丁度止まった。

「いま帰ったぞ」
「リボーンくんお帰りなさい。あら、そちらのお嬢さんは?」
「は、初めまして、私坂下葵と申します。なにとぞ宜しくお願いします!」

 いきなり現れた女の人にとっさにリボーンさんの言っていたママンだろう。
 そうだと判断すれば私は勢いよく頭をさげ、その場に正座した。

「リボーンくんの言っていた、もう一人の家庭教師ね。ご丁寧にどうも綱吉の母です」

 頭をあげると同じように頭をさげるママンの姿に私は酷く恐縮してしまい、なかなか立ち上がれなくなってしまった。

「あ、あの、その」
「ああ、お部屋ね、客間でいいかしら? ごめんなさいね家狭くて」
「いえ、そんな住まわして頂けるだけで光栄です!」

 手を振り、顔も横に振ればママンは可愛らしく笑ってくれた。
 何だかここの雰囲気も、あそこに似ているな。
 私は、ママンが部屋に案内してくれるらしく立ち上がり一旦リボーンさんと別れ、ママンの後を追いかけた。

「あ、あのよろしければお名前伺ってもいいですか?」
「あら、ごめんなさい、沢田奈々です。葵ちゃんだったわよね? そんな固くならないで、自分の家だと思ってくれていいのよ」

 奈々さんは、一つの部屋の扉を開けながらそう言い、その温かな雰囲気に私の顔は赤くなりそうだった。

「はい、ここが今日から葵ちゃんの部屋よ。好きに使ってくれていいからね」
「ありがとうございます」

 通された部屋は決して広いものではなかったが、かえってこのほうが安心した。
 しかも畳みときた、文句一つない。
 私は奈々さんに頭をさげ何度もお礼を言っていると誰か帰ってきたらしく扉の開く音がした。

「あら、ツナだわ。食事の用意しないと、じゃあ葵ちゃん、ツナの事よろしくね」
「あ、はい!」

 どうやら、十代目が帰ってきたらしい。
 私は奈々さんとは廊下で別れ、十代目の部屋へと続く階段を上っていく。
 そしてもうすぐ部屋の前だという時に、突然爆音と共に扉が外れた。

「……な、何?」

 いや、何? と聞かなくとも正体はわかっている。
 相変わらずの家庭教師ぶりに、私は十代目の安否が心配になる。
 恐る恐る部屋へ顔を覗かせれば、瓦礫の下敷きになっている十代目の姿が目に入った。

「絶対マフィアになんかなるもんか」
「十代目! 大丈夫ですか!?」

 私は慌てて瓦礫をどけ、十代目の手を取る。
 十代目は目を丸くさせ、マジマジと私の顔をみた。

「君、誰?」
「十代目、その前に手当てしましょう」

 私は下へ急いで降り、治療箱を持ってこれば水で傷口を洗い消毒液を塗った。
 塗る時、十代目は少し痛そうにしたが、私は構わず続る。
 最後の仕上げにバンソウコを貼れば、少しほうけた顔をした十代目はバンソウコをジッと見ながら「ありがとう」とお礼を言った。

「いえ、私はリボーンさんがつけた傷を治すのが専門ですので」
「リボーン……って君もまさか」

 十代目は、あわあわと口を震わせながら、私を指さす。
 私は正座をし、前へ手をつきお辞儀をした。

「十代目、お初にお目にかかります。私、坂下葵と申します。以後お見知りおきを」
「やっぱりー!」

 挨拶を終えると同時に、十代目は頭を抱え、蹲り、まだ手榴弾で出来た怪我があるのかと思い近づけば勢いよく顔を上げた。

「俺、マフィアなんか絶対ならないからね!」
「え、でも、その」
「いくら言ったって、ならないもんは、ならないからね!」

 十代目はそれだけ言い残し、階段をおりて行った。

「どうだ? 十代目候補は」
「凄くあの人に似てます」

 いつの間にか帰ってきたリボーンさんは、寝巻きからスーツに着替えている。
 私は脱がれた寝巻きを折りたたみながら、リボーンさんに目を向けた。

「だからこそ、いいボスになれる気がします」

 折りたたみ終えた寝巻きを、リボーンさんに渡せば丁度奈々さんにご飯だと呼ばれた。
 リボーンさんは私の頭に乗り「行くぞ」と一発私の頭を叩いた。
 私はそれに「わかってますよ」と頷き立ち上がれば瓦礫の山をかいくぐり、下へと降りていった。
 さて、今日のご飯は何かな?

2007 03/29

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