弁当
青いお弁当包みに包まれた二段のお弁当を抱え私は、応接間のドアの前に立っていた。
ただ、立っているだけなのに震えが止まらず、冷や汗が背中を伝う。
振り返れば数日前、幼なじみである恭弥くんのために草壁さんに相談して、お弁当を作ったのだが。
「渡すタイミングがわからない」
かれこれ、十分ほどたっただろうか。落ち着かせるため、ドアの前を行ったり来たりしてみるが開ける勇気は沸いてこず、途方にくれる。
きっと中では草壁さんが待っているだろうな。
草壁さん、私、やっぱり無理です。
私は、応接室から踵を返し教室へと帰ろうとしたが、それは突然開いたドアによって叶わなかった。
「……こんにちは、ほけほけ弁当です。恭弥くんに弁当お届けに来ました」
私はひきつった笑みを浮かべ、恭弥くんにお弁当を差し出せば、恭弥くんは「何、群れるつもり?」と嫌な笑みを浮かべ私に迫ってきた。
「違います、デリバリーサービスです。草壁さんが、恭弥くんお昼食べないこと多いからって聞いて作って来たのです」
「ふーん、それで?」
「え?」
私は、応接室に戻って行く恭弥くんの後を追いかけ、中へと入ると、壁の傍に立っている草壁さんと目があい小さくお辞儀すれば、草壁さんもお辞儀を返してくれた。
「それで? まさか、それだけじゃないよね」
「え、あー、後はこれから、恭弥くんのお弁当係りにしてはくださいませんか?」
口からとっさに出てきた言葉に、私は絶対許してくれないだろうと思っていれば、恭弥くんは、椅子に座り肘を立て手を組めばそこに顔を乗せ一拍おく。
「いいよ」
「……ほ、本当ですか!?」
私は手を組み、緩む頬を抑えて恭弥くんに聞けば、恭弥くんは指で一度手の甲を叩けば立ち上がり私へと近づいてくる。
「ただし」
「ただし、何です……ーっ!?」
私が聞き終わる前に、恭弥くんは仕込みトンファーを私の顔面、ギリギリで振り、私はとっさに後ろに下がり前髪が少しかすっただけで済んだがきっと下がらなかったら殺られてた。
「ただし、僕の嫌いな物作ってきたら噛み殺すから」
「は、はい」
心臓がまだドクドクと脈打つ。
私は早い所退散しようと、お弁当を恭弥くんにつきつければ、駆け足で応接室を後にした。
何やら、よかったような、私の命が短くなったような、そんな気がしたが。
また、幼なじみの側に居られるのならば、まあ、いいかな。
そう感じたお昼休みは、私が食べる時間を与えず、無情にもチャイムが鳴り響くのだった。