ケーキと私

「一か八か勝負してみます。おう、私はやってやるよ」

 私はキッチンに立ち、エプロンを着用すれば。ボールと泡立て機そしてヘラを取り出し、ケーキの材料を順番に入れていけば目にもとまらぬ速さで材料を混ぜきった。その早さは見た人がいれば残像が見えたと言うだろう。出来上がった生地は滑らかで、ヘラで持ち上げると綺麗に落ちていった。
 私はその出来栄えに満足し、ケーキの型に入れて空気を抜けば、温めておいたオーブンに入れて指定された時間と温度を合わせスタートボタンを押した。押すと同時にヴーと唸りだしたオーブンを見届けると、私は使ったボールたちを洗いながら先ほどから後ろにいた新八の方へと振り向いた。
 新八は、気づいてないと思っていたのか肩を一瞬上げて驚きその後呆れた眼差しで私を見てきた。

「何してるんですか?」
「ケーキ作ってた」

 私は流れる水に手をつけ、スポンジでゴシゴシとボールを洗う。

「あれ、呪いかけてたんじゃないんですか? 凄くイヒヒヒとか言いながらかき混ぜてたじゃないですか」
「嘘、嫌だわ乙女がそんな恥ずかしい」

 私は水をきり、タオルで手を拭くとその手を頬にあて、「いやんいやん」とふざけて言ってみた。自分ながら鳥肌が立つ。すると新八は嫌そうに顔を歪め、乾いた笑いをもらしていた。失礼な奴だな。
 私はしゃがみこみ、オーブンの中をドア越しに眺めた。相変わらずオーブンはヴーと唸り、オレンジ色のライトに照らされケーキが回ってる。

「うん、呪いはかけたかも」
「かけたんですか」
「思いっきり憎しみと恨みをこめて」

 私は顔を上げ新八を見上げ、手でハートを作りそれを新八に向けた。ご丁寧に「フォーリンラーブ」と言いながら。我ながら馬鹿だと思う。新八は「意味わかんないんですけど」と眉を寄せ、私の手をはらいのけた。

「僕はてっきり。明日銀さんの誕生日だから、ケーキ作ってるんだと思ったんですが。違うみたいですね」
「うん、新八くん」
「何ですか?」

 新八は自分の言いたいことを言うと投げやりになってきたのか、はたまた自分の相手をするのに疲れた感じ始めたのか投げやりな返事をした。それに私は、一回ため息をつき次にジッと新八の顔をみた。

「新八くん、もしもだよ。お通ちゃんが私とケーキどちらが好き? って聞いたらどっち答える?」
「そりゃもちろん。お通ちゃんですよ」

 新八の早い答えに私は手をとり、「だよねー」と言うと新八はそれがどうしたと言いたげに眉をよせた。

「普通さ、好きな子とケーキ比べたら好きな子選ぶよね」
「銀さんに聞いたんですか?」

 頷くと新八は「銀さんだもんなー……」と少し遠い目になっていた。ピーと甲高い音がなり、オーブンを開けると焼き上がった狐色したケーキを取り出す。一気に室内は甘い香りに包まれ、型から外し乾燥棚にひっくり返して置けば柔らかなスポンジが現れた。デコレーション用に生クリームを作るため、あらかじめ入れて材料を入れておいたボールのをかき混ぜる。

「だからもう一度かけようと思うの」

 かき混ぜあげた生クリームを、泡立て機についた分をとるためカンっとボールのふちに当てる。

「もし次も私じゃなくてケーキを選んだら、これを顔面に投げつけて別れてやる」

 私は絞りに生クリームを入れると、冷ましておいたケーキに塗り始める。絞り出すたびに綺麗に白くなっていくケーキに、私は自然と笑みが溢れデコレーション用のチョコといちごを乗せると、出来上がったそれを皿に置く。我ながらいい出来栄えだと思う。

「なら行ってきます」
「あ、はい。行ってらっしゃい」

 新八のやる気ない行ってらっしゃいを聞きながら、私は銀ちゃんのいる部屋へと行き。部屋の前で息をつけば一歩踏み出し銀ちゃんに向けて、ケーキを差し出し大声で尋ねた。

「ケーキと私、どっちが好き?」

(2006 10/11)
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